令和5年度のC社物語

C社は業務用食品製造業で、温泉リゾート地にある高級ホテルと高級旅館5軒を主な販売先として、和食や洋食の総菜、菓子、パン類などの多品種で少量の食品を受託製造しています。

現経営者は高級ホテルの料理人を経験し、ホテル調理場の作業内容などのマネジメントに熟知しています。また、製造部長、総菜製造課長、菓子製造課長(工場管理者)は、ホテルや旅館での料理人の経験があります。彼らの経験により高級ホテル・高級旅館との取引を可能にしており、C社の生産面の強みと言えます。

C社の製造部では、コロナ禍で受注量が減少した2020年以降の工場稼働の低下による出勤日数調整の影響で、高齢のパート従業員も退職し、最近の増加する受注量の対応に苦慮していました。C社は生産能力を向上させるため、次の取り組みを行いました。

まず初めに、販売先料理長から口頭で指示される各製品の食材、使用量、作業手順などの製品仕様はすべて文書化して整理しました。これまでは工場管理者が必要によってメモ程度のレシピを作成していましたが、これを文書化することで作業方法などを標準化することができます。そのうえでパート従業員を指導することで生産性の向上を図りました。

つぎに、加工室内のレイアウトを見直しました。C社の各加工室の設備機器のレイアウトはホテルや旅館の厨房と同様なつくりとなっていました。ホテルや旅館の厨房のレイアウトは食品工場とは異なり、さまざまな料理に対応できるように機能別に配置されています。しかし、C社の工場では惣菜と菓子のみを製造しており、5つの総菜製造班、菓子製造課には菓子製造とパン製造の2つの班に分け、加工室も班ごとに分離されています。そこで、受注量が最も多い総菜加工については、レイアウトを前処理、計量・カット、調理、包装の製造工程の流れに沿って配置しました。生産の流れ化による生産性向上を期待しました。

C社の工場では製造日に必要な食材や調味料は前日に準備していますが、その時点で納品遅れが判明し、販売先に迷惑をかけたこともあります。現在、発注した資材の納入管理は仕入先である食品商社が行っています。食品商社は、C社の月度生産計画と食材や調味料の消費期限を考慮して納品しています。しかし、販売先への日ごとの納品は宿泊予約数の変動によって週初めに修正し確定するため、商社が参照している月度生産計画の情報とずれが生じてしまいます。そこでC社は、月度生産計画は納品終了が確定する週初めに合わせて修正し、これを食品商社と共有しました。そして、これまで商社任せの納入管理を改めて、C社の資材管理課が管理することにしました。これにより、食材の納入遅れを原因とする生産能力不足を解消しました。

生産能力の向上に取り組んだC社ですが、別の問題にも直面しています。C社では、最近の材料価格高騰の影響が大きく、付加価値が高い製品を販売しているものの、収益性の低下が生じていました。そこでC社は、原材料の削減を図るため、以下の対策を講じました。

まず、これまでパートリーダーが経験値で見積り、月末に定期発注していた食材や調味料は、実際の消費量や在庫量に基づいて必要量を見積り週次で発注することで、所要量の精度を向上させるとともに、1回あたりの発注量を削減しました。さらに、食材や調味料は入出庫記録を作成して現品管理を行い、食材や調味料の実在庫を把握することで不要な発注をなくしました。これにより在庫が減少するため、在庫関連費用が削減できます。また、食材や調味料を消費期限まで管理することで、廃棄ロスを削減します。こうして在庫のムダ、発注のムダ、廃棄のムダを削減し、収益性の改善を図りました。

C社社長は、受注量が低迷した数年前から、既存の販売先との関係を一層密接にするとともに、他のホテルや旅館への販路拡大を図るため、自社企画製品の製造販売を実現したいと思っていました。また、食品スーパーX社との新規事業でも総菜の商品企画が必要となっています。創業から受託品の製造に特化してきたC社は、次のように製品の企画開発を進めました。

C社の製品企画開発で重要なことは、市場ニーズを捉えた開発を行うこと、および、製品仕様を考慮した開発を行うことです。そこでC社は、総菜商品の企画開発を共同で行っているX社を通じ、顧客ニーズの収集を行いました。C社には最終消費者向けの販売チャネルがないため、C社所在地周辺で多店舗展開する中堅食品スーパー X社のチャネルを活用しました。その上で、中堅食品製造業で製品開発の実務や管理の経験がある外部人材と、C社の惣菜製造課や菓子製造課の工場管理者が一緒になって製品仕様を決定することにしました。この外部人材はX社との共同開発のために採用した経験者で、中堅食品製造業での製品開発の経験がありますが、高級ホテルの惣菜向けの製品開発を経験してきたわけではありません。C社の工場管理者はホテル向け惣菜のレシピ(必要な食材、その使用量、料理方法を記述した文書)を作成できるため、両者がチームとなって開発に取り組むことで、作りやすさや材料・生産コストを考慮した製品を開発することができるようになります。

食品スーパーX社と共同で行っている総菜製品の新規事業について、C社社長は現在の生産能力では対応が難しいと考えており、工場敷地内に工場を増築し、専用生産設備を導入し、新規採用者を中心とした生産体制の構築を目指そうとしています。このC社社長の構想について、その妥当性とその理由、またその際の留意点を検討しました。

まず前提として、新規事業自体は必要で取り組むべきだと考えます。高級ホテル向けの惣菜等を受託製造してきたノウハウを活かせ、X社という新たな販路を獲得できることはC社にとって魅力的で、既存取引先への依存度を下げられるため経営リスクの観点からも価値があります。

一方で、生産能力不足を解消する目的の投資に関しては、妥当性は低いと考えられます。その理由は、X社との新規事業が「季節ごとの」「商品企画」頼みであることです。C社はそもそも自社製品開発の経験・ノウハウがないため、開発販売を前提に工場を増築することはリスクが大きすぎると思われます。また、季節ごとの商品企画は定番品とは異なり、季節ごとに売れる商品を開発することが求められます。さらに、新規事業向けの専用設備を導入することもリスクが大きいと言えます。汎用設備であればX社との共同開発事業以外にも設備を転用できますが、専用設備は関係特殊投資となるため、高級ホテル向けなど既存事業への転用が困難となります。さらに、新規事業ではX社が各月販売計画を作成しますが、販売数量が保証されているわけではないため、設備稼働率が低い場合は投資リスクをC社が負担することになります。一方で、商品の納品は最低1日2回であることから、現在よりも多頻度配送になる可能性が高くなります。配送頻度が増加すれば、配送要員の確保や人件費等のコスト負担が増加することで収益性が低下します。そして、X 社は当初は客単価の高い数店舗から始め、10数店舗まで徐々に拡大したい考えであることから、設備の稼働率が一定以上に達するまでに時間を要するだけでなく、店舗数の拡大に比例して客単価が低下するため、投資利益率が低下します。このように、投資に関してはメリットよりもデメリット・リスクの方が大きいため、妥当性は低いと判断できます。X社と共同での新商品開発が成功するのか、その場合、X社がC社の投資に見合った販売ができるのか留意すべきです。

というのは冗談で、季節ごとのヒット商品開発なんて楽勝で専用設備は惣菜事業に転用できX社はたくさん売ってくれて販売店舗数は一気に拡大して稼働率も上がって客単価も下がらなくて配送頻度も増えないから大丈夫ですすぐ投資しましょう。