今年の1次試験の難易度と令和3年度の経営法務対策③

前回に引き続き、今年の経営法務の解説をしていきます。

第1問~第8問までの解説はこちら。

今回は、第9問からです。

目次

  1. 第9問 職務著作
  2. 第10問 パリ条約
  3. 第11問 商標法/不正競争防止法
  4. 第12問 実用新案法と特許法の比較
  5. 第13問 先使用件
  6. 第14問 不正競争防止法
  7. 第15問 著作物の引用
  8. 第16問(設問1)および(設問2) 英文契約
  9. 第17問 相隣関係


第9問 職務著作(ウで判断可能)

 以下の会話は、C株式会社の代表取締役甲氏と、中小企業診断士であるあなたとの間で行われたものである。会話の中の空欄AとBに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。

甲 氏:「当社が製造販売するアイスキャンディーに使っている恐竜のキャラクター『ガリガリザウルス』をご存じですよね。いま、すごく人気が出ているのですが、このフィギュアやステッカーを作って販促品にしようと思っています。そこで、あらためて、このキャラクターの著作権が誰のものか気になって、相談したいのです。」

あなた:「その『ガリガリザウルス』の絵柄は、どなたが描いたのですか。」

甲 氏:「当社の商品開発部が考えた商品コンセプトに基づいて、パッケージデザインを担当する宣伝部の若手社員が業務として描き下ろしたものです。」

あなた:「そういうことでしたら、その絵柄は職務著作に該当しそうですね。」

甲 氏:「その職務著作とやらに該当したら、『ガリガリザウルス』の絵柄の著作権は、誰の権利になるのでしょうか。」

あなた:「社員と会社との間に契約、勤務規則その他に別段の定めがないのでしたら、著作者は( A )となります。権利については( B )ことになります。」

甲 氏:「なるほど、分かりました。」

〔解答群〕
×ア A:従業者である社員
   B:著作者人格権は社員が有しますが、著作権は使用者である会社が有する
×イ A:従業者である社員
   B:著作者人格権は社員が有しますが、著作権は使用者である会社と社員が共有する
○ウ A:使用者である会社
   B:著作者人格権と著作権の両方を会社が有する
×エ A:使用者である会社
   B:著作者人格権は会社が有しますが、著作権は会社と従業者である社員が共有する


Aは基本論点で、Bは平成27年第14問でも出題されてます。

平成27年第14問
〇イ 著作権法上、職務上作成する著作物の著作者は、雇用契約等で別途規定しない限り使用者であるから、使用者が法人であっても著作者人格権に基づき当該著作物の改変行為の差止めを請求できる。




第10問 パリ条約

工業所有権の保護に関するパリ条約に規定する優先権の期間についての記述として、最も適切なものはどれか。

×ア 特許、実用新案及び意匠に認められる優先権は12か月であり、商標に認められる優先権は6か月である。
×イ 特許及び意匠に認められる優先権は12か月であり、実用新案及び商標に認められる優先権は6か月である。
○ウ 特許及び実用新案に認められる優先権は12か月であり、意匠及び商標に認められる優先権は6か月である。
×エ 特許及び商標に認められる優先権は12か月であり、実用新案及び意匠に認められる優先権は6か月である。


これまでに出題されていない論点で対応は困難です。



第11問 商標法/不正競争防止法(イで判断可能)

 以下の会話は、D株式会社の代表取締役甲氏と、中小企業診断士であるあなたとの間で行われたものである。会話の中の空欄AとBに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。

甲 氏:「今年も暑く、ファン付き作業服が好調です。特に、この春に発売した新商品『トルネード』が大ヒットしています。」

あなた:「強力に冷却される感じがして、良いネーミングですね。」

甲 氏:「困ったことに、ライバルメーカーが早くも『トーネード』なる名前を付けて同種の作業服を売り始めています。なにか対策を考えないといけないと思っています。」

あなた:「まずは商標登録出願すること、そして不正競争防止法2条1項1号に規定する商品等表示の不正競争行為として警告することが考えられますね。」

甲 氏:「商標登録は登録まで時間がかかりますよね。のんびり待っていられないので、不正競争防止法だけで対策したいと思いますが、どうですか。」

あなた:「今回主張できると考えられる不正競争防止法2条1項1号は、( A )を自ら立証しなければなりませんから、その労力がとても大きいのです。今回、相手の作業服と御社の作業服は商標法上、同一商品といえるでしょう。そのため、商標権の行使であれば、御社商標「トルネード」と相手商標「トーネード」が( B )と認められれば侵害になりますから、商標登録して商標権を取得することが賢明だと思います。使用している商標が模倣された場合、商標登録の早期審査を請求できる場合があるようです。」

甲 氏:「そうなのですか。登録に時間がかからないなら、商標登録も考えてみます。」

あなた:「もしよろしければ、商標を得意とする特許事務所を紹介します。」

〔解答群〕
×ア A:御社商標が需要者の間に広く認識されていること、及び御社商標と同一若しくは類似の商標を付した相手商品が御社商品と混同を生じさせること
   B:需要者に混同を生じさせる
○イ A:御社商標が需要者の間に広く認識されていること、及び御社商標と同一若しくは類似の商標を付した相手商品が御社商品と混同を生じさせること
   B:類似する
×ウ A:御社商標が著名であること
   B:需要者に混同を生じさせる
×エ A:御社商標が著名であること
   B:類似する


①「トルネード」のパクリ商品が「トーネード」なので周知表示混同惹起行為だと判断できます。

②周知表示混同惹起行為では「混同を生じさせる」ことが条件となりますが、商標法は「類似」のみが条件です。

上記によりイと判断できます。




第12問 実用新案法と特許法の比較(ウで判断可能)

 実用新案法と特許法の比較に関する記述として、最も不適切なものはどれか。ただし、存続期間の延長は考慮しないものとする。

○ア 権利侵害に基づく差止請求を行使する場合、実用新案権は特許庁による技術評価書を提示する必要があるが、特許権は不要である。
○イ 実用新案権の存続期間は出願日から10年、特許権の存続期間は出願日から20年である。
×ウ 実用新案出願は審査請求を行わなくとも新規性や進歩性などを判断する実体審査が開始されるが、特許出願は出願日から3年以内に審査請求を行わないと実体審査が開始されない。
○エ 物品の形状に関する考案及び発明はそれぞれ実用新案法及び特許法で保護されるが、方法の考案は実用新案法では保護されず、方法の発明は特許法で保護される。


実用新案は無審査主義なので容易に×にできます。




第13問 先使用件(アで判断可能)

以下の会話は、中小企業診断士であるあなたと、E株式会社の代表取締役甲氏との間で行われたものである。

会話の中の空欄AとBに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。

あなた:「御社の紙製ストローの販売が好調のようですね。」

甲 氏:「おかげさまで、タピオカミルクティー用の紙製ストローが、プラスチック製ストローの代替製品として好評です。しかし、好事魔多しです。おととい、同業者であるF社からこの紙製ストローが同社の最近登録された特許権を侵害するとの警告書が来ました。どうしたらよいでしょうか。」

あなた:「一般的には、①特許発明の技術的範囲に属していないと反論する、②相手の特許権に対抗する正当権限を主張する、③相手の特許権自体を無効にする、④対抗することが難しい場合はライセンス交渉や設計変更を考える、といった選択肢があります。」

甲 氏:「正当権限とはどのようなものですか。」

あなた:「最も一般的なのは先使用権です。この権利を主張するためには、( A )の際、現に、日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者である必要があるので、しっかりした証拠を集めないといけません。」

甲 氏:「当社は、ずいぶん前から、大口顧客に試作品を提供して意見を聞いていましたから、証拠はそろえられると思います。ああ、そうだ、このように当社の試作品が早いのですから、相手方の特許発明はすでに新規性がなかったとして特許権を無効とすることはできませんか。」

あなた:「その顧客が店頭で試験的に使用していた可能性もありますね。いずれにしろ、新規性を喪失しているかどうかは、御社試作品の実施の事実が( B )かどうかが問題となります。」

甲 氏:「なるほど。」

あなた:「いずれにしろ、警告書に対する回答書を出さなければならないでしょう。よろしければ、特許紛争に強い弁護士を紹介します。」

甲 氏:「ぜひ、よろしくお願いします。」

〔解答群〕
○ア A:特許の出願
   B:公然の実施に当たる
×イ A:特許の出願
   B:多数に対する実施に当たる
×ウ A:特許の登録
   B:公然の実施に当たる
×エ A:特許の登録
   B:多数に対する実施に当たる


①先使用件の主張は特許の「出願時点」で判断すること
②新規性要件には以下があること

 1.特許出願前に日本国内または外国において公然知られた発明(公知発明)
 2.特許出願前に日本国内または外国において公然実施をされた発明(公用発明)
 3.特許出願前に日本国内または外国において、頒布された刊行物に記載された発明または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明

によりアと判断できます。



第14問 不正競争防止法(イで判断可能)

不正競争防止法に関する記述として、最も適切なものはどれか。

×ア 不正競争防止法第2条第1項第3号に規定するいわゆるデッドコピー規制による保護期間は、日本国内において最初に販売された日から起算して5年を経過するまでである。
○イ 不正競争防止法第2条第1項第4号乃至第10号で規定される営業秘密とは営業上の情報のみならず、技術上の情報を含む。
×ウ 不正競争防止法第2条第1項第4号乃至第10号で保護される営業秘密となるためには、秘密管理性、有用性、創作性が認められる必要がある。
×エ 不正競争防止法第2条第1項第4号乃至第10号で保護される営業秘密は、条件を満たせば不正競争防止法第2条第1項第11号乃至第16号で保護される限定提供データにもなる。


ひねりのない基本的な問題です。



第15問 著作物の引用

 著作権法上、著作権者の許諾を得ずに著作物を利用できる「著作物の引用」となり得る行為として、最も適切なものはどれか。

○ア 引用することができる著作物を翻訳して利用すること。
×イ 公表されていない著作物を利用すること。
×ウ 複製の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により著作物の出所を明示しないで、著作物を複製すること。
×エ 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲を超えて著作物を利用すること。


翻訳が引用に含まれる知識が必要です。




第16問(設問1)および(設問2) 英文契約

 以下の会話は、株式会社Pの代表取締役甲氏と、中小企業診断士であるあなたとの間で行われたものである。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。
 なお、空欄Cは、設問ではなく、あえて空欄としているものであり、解答する必要はない。

甲 氏:「弊社は、( A )として、a 国のQ社との間で売買契約を締結する予定です。Q社から提示された売買契約書案には、以下のような条項があるのですが、変更を申し入れる必要はありませんか。
  In no event shall the liability of the Seller for breach of any contractual provision relating to the Goods exceed the purchase price of the Goods quoted herein. Any action resulting from any breach by the Seller must be commenced by the Buyer within two weeks after the Goods are delivered.」

あなた:「この規定は、御社にとって、不利益な条項となっております。例えば、( B )という点があります。」

甲 氏:「ありがとうございます。以下の規定は、どのような内容のものですか。
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the ( C ).」

あなた:「この規定は、( D )に関する規定です。( E )。全体にわたって相談が必要でしたら、弁護士を紹介することは可能です。」

甲 氏:「ぜひ、よろしくお願いいたします。」

(設問1)
 会話の中の空欄AとBに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。

×ア A:売主  B:買主の契約違反に対する訴訟提起の期間が短い
×イ A:売主  B:買主の賠償の上限が商品の購入価格とされている
○ウ A:買主  B:売主の契約違反に対する訴訟提起の期間が短い
×エ A:買主  B:売主の賠償の上限が現実に生じた損害に限定されている

(設問2)
会話の中の空欄DとEに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。

×ア D:裁判管轄  E:a国となると多額の費用がかかる可能性があります
×イ D:裁判管轄  E:判決を取得した後の執行可能性の問題があります
×ウ D:準拠法   E:裁判管轄が決まれば、必然的に準拠法が決まります
○エ D:準拠法   E:内容を容易に知り理解できる国の法律が望ましいです


英語の知識と勘が必要です。



第17問 相隣関係

 民法に定める相隣関係に関する記述として、最も適切なものはどれか。なお、公法的規制は考慮せず、別段の慣習はないものとする。

×ア 導水管を埋め、又は溝を掘るには、境界線からその深さと同一以上の距離を保たなければならない。
×イ 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るために、その土地を囲んでいる全ての土地のうち損害が最も少ない場所を通行しなければならない。
×ウ 屋根を隣地との境界線を越えて隣地に出す場合は違法であるが、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根を設けることは適法である。
○エ 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切らせることができるにとどまるが、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、自らその根を切ることができる。


これまでにない論点の問題です。



次回は第18問から解説していきます。

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