【年末年始特集③】平成30年度2次試験 出題の趣旨の考察(事例Ⅱ)

えぐちです。

昨日に引き続き、今日は事例Ⅱを考察していきます。
※EBA解答例は11月4日に作成したものです。趣旨を踏まえて変更・修正する箇所は今日現在ではありません。

第1問(配点25点)  B社の現状について、3C(Customer:顧客、competitor:競合、Company:自社)分析の観点から150字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
B社の顧客の状況、自社の強み・弱みと競合の状況について分析する能力を問う問題である。
自社について「強み・弱み」が追加されました。
経営資源の観点から、競合と比較したB社の弱みは「X市最寄り駅からは遠いこと」が指摘できます。
同様に、競合と比較したB社の強みは「B社は市街地中心部にあり、名刹・古刹の点在地域や商業地域の徒歩圏内」という立地上の強みが指摘できます。
それ以外は特に補足できる情報は得られませんでした。

【EBA解答例】
競合は駅前のチェーン系ビジネスホテル2軒でB社の周辺に競合する宿泊施設がなく、顧客はX市市街地の地域の祭りの見物客、名刹を訪れる夜間の滞在人口、商業地域に和の風情を求めるインバウンド客等が増加している。B社は市街地中心部にあり、名刹・古刹の点在地域や商業地域の徒歩圏内に位置し、立地上の優位性をもつ。

第2問(配点25点)
B社は今後、新規宿泊客を増加させたいと考えている。そこで、B社のホームページや旅行サイトにB社の建物の外観や館内設備に関する情報を掲載したが、反応がいまひとつであった。B社はどのような自社情報に新たに掲載することによって、閲覧者の好意的な反応を獲得できるか。今後のメインターゲット層を明確にして、100字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
現在のB社に関するインターネット掲載情報の問題点を踏まえ、B社の新規宿泊客を増加させるために必要な新たな掲載情報を提案する能力を問う問題である。
「インターネット掲載情報の問題点」が追加されましたが、設問には「反応がいまひとつ」という表現があったため、現状に問題点があることは想定できました。
このため特に補足できる情報はありません。

【EBA解答例】
和の風情を求めるインバウンド客に、外国語でホームページから宿泊予約できる点、日本の朝を感じられる朝食やこだわりの器、和の風情がある苔むした庭園、海外でも名の知れた作家や芸術家の美術品の知名度を訴求する。

第3問(配点25点)
B社は、宿泊客のインターネット上での好意的なクチコミをより多く誘発するために、おもてなしの一環として、従業員と宿泊客との交流を促進したいと考えている。B社は、従業員を通じてどのような交流を行うべきか。100字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
B社の宿泊客の好意的なクチコミを引き出すために従業員が行うサービス施策について、助言する能力を問う問題である。
「従業員と宿泊客との交流を促進」が「従業員が行うサービス施策」に変更されています。
出題者の意図として、単なるコミュニケーションではなく、サービス、つまり顧客にとって「価値」がある交流が期待されていたことが読みとれます。
これにより従業員の語学力が顧客に価値を提供できるという前提になるため、ターゲット(サービス提供相手)はインバウンド客に限定されます(語学力は既存の常連客には活かせません)。

【EBA解答例】
英語に堪能な従業員や主要な外国語でコミュニケーションが図れる従業員によるX市市街地の観光案内をする。有料で山車を引く体験、食べ歩きできるスイーツや地域の伝統を思わせる和菓子と共に写真撮影しSNS投稿を促す。

年末のブログで本問と第2問は優先順位の高い問題と書きました。
上記のように、「ターゲット」「活用資源」「効果」まで確定した問題は出題者の意図を外すリスクが低いからです。
難易度評価が難しいと思う方は、この問題と第4問を「ターゲット」「活用資源」「効果」の観点で比較してみてください。
明確な違いに気づけるはずです。

第4問(配点25点)
B社は、X市の夜の活気を取り込んで、B社への宿泊需要を生み出したいと考えている。B社はどのような施策を行うべきか。100字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
X市の状況を踏まえて、X市と連携しながらB社への宿泊需要を高める施策について、助言する能力を問う問題である。
「X市と連携しながら」という情報が追加されました。
実は平成29年度第3問にも連携の問題が出題されています。
そこでは「地域内の中小建築業と連携しながら」と、連携相手が具体的に明記されています。

これにより、第4問において出題者が期待した「連携相手」は、地元の割烹料理店や飲食店など「X市内の企業」ではなく、「X市」ということになり、「X市の取り組み」に連携(=連動)した戦略が期待されていたと考えることができます。
そしてB社が「連携」できる具体的なX市の取り組みは「通年で夜間ライトアップされた名刹」となります。
B社は名刹から徒歩圏内という立地上の優位性があるため、庭園をライトアップすることでX市の観光施設の一部として「連携」でき、こだわりの器を使った朝食の訴求による宿泊需要の喚起が期待できます。
これにより、「夜間の滞在人口増加」という「X市の夜の活気」を取り込むことが可能になります。

EBAでは以前、この問題は「B社が単独で取り組める」と書きましたが、その見解は少しも変わりません。
やみくもに外部資源に依存する問題は作問されないという見解は、事例問題を「なんでもあり」にしないための重要な設問設計で、EBAが事例Ⅱ対策で最も重視していることの1つです。

【EBA解答例】
名刹が点在する地域から徒歩圏内である立地を活かし、和の風情がある苔むした庭園をライトアップして夜間鑑賞できるようにし、日本の朝を感じられるこだわりの器を使った朝食を訴求し、事前予約のない客の宿泊を促す。

上記解答例は「自社資源のみ」で構成されていますが、「和の風情がある苔むした庭園」を活かし、夜間滞在人口の増加の要因となった「(X市の取り組みである)夜間ライトアップされた名刹」と連携しています。
さらに、この問題でB社の立地上の優位性が活かせるという設計になっています。
また本問は「宿泊需要を高める」ことが課題なので、来館者がB社に泊まりたくなるような魅力が必要です。
そのため「日本の和を感じられるこだわりの器を使った朝食」というサービスを訴求します。
庭園などの物的資源は「見て終わり」ですが、朝食などのサービス資源は「体験しないと得られない」価値なので、宿泊需要を喚起する誘因になります。

参考までに、対応する5段落を記載します。
10年ほど前、X市の名刹と商業地域が高視聴率の連続ドラマの舞台となり、このエリアが一躍脚光を浴びた。これを機に、商業地域に拠点をもつ経営者層を中心として、このエリア一体の街並み整備を進めることになった。名刹は通年で夜間ライトアップを行い、地域の動きに協力した。地域ボランティアは観光案内や街の清掃活動を行い、美しい街並みと活気の維持に熱心である。こうした影響を受け、最近では、ほとんどいなかった夜間の滞在人口は増加傾向にある。
上記より、夜間の滞在人口が増加した要因として、「通年で夜間ライトアップされた名刹」と、「地域ボランティアによる美しい街並みと活気の維持活動」であることが明確です。
出題者が敢えて「夜の活気」という時制条件を付けた理由が理解できたと思います。

ところで、連携と提携はどのような意味の違いがあるのでしょうか。
辞書を引くと、次のように書いています。

【連携】 《名・ス自》同じ目的で何事かをしようとするものが、連絡をとり合ってそれを行うこと。
【提携】《名・ス自》協力して事を行うため互いに力を合わせること。タイ アップ。「技術―」

よく似た意味ですが、対象間の繋がりの強さという点で、【提携】は【連携】よりも強いつながりがあると考えられますね。