コロナ後の日本経済と資金調達

えぐちです。

緊急事態宣言が発令され、多くの企業の事業活動が縮小を余儀なくされています。

特に中小企業への影響が大きく、売上が激減する多くの中小企業が資金難に直面しており、来月の給料や家賃の支払いに窮し、やむなく借入を申し込まざるを得ない状況に陥っています。

今日は、この状況において借入をすることの留意点について書きます。

今回の経営危機は、災害のように突然降ってきたもので、通常の資金不足とは性質が大きく異なります。

多くの企業にとって今回の借入は「赤字補填資金」になります。

赤字補填資金は通常の運転資金とは異なり返済原資がないため、将来の収益増加に期待しての借入になります。

このため、今回の借入に際しては「コロナ後の世界」を具体的に想定する必要があります。

1.日本経済は昨年10月から景気後退期に入っている

日本経済はすでに昨年の消費税増税後から景気後退期に入っています。

このため、コロナ危機がなくても需要は減少(10~12月のGDPは△7.1%でした)していました。

これにコロナの影響が急激な需要減少を加速させたことで、コロナ後の日本経済はこれまで私たちが経験したことのない規模で縮小するという想定が必要になります。

2020年3月の倒産件数は前年対比も前月対比も1割以上増加しており、緊急事態宣言が発令された4月以降、この数値はさらに増加することが確実です。

https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/2003.html

また今年に入ってから有効求人倍率は大きく低下しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212893_00032.html

データは2月までですが、3月以降はさらに低下していることは確実で、失業率も上昇しています。

ここ数年まで、業界によっては人手不足による賃上げが続きましたが、今後は逆転し、賃下げが拡がることが想定されます。

つまり、消費税増税により消費者の購買力が低下した状況において、失業増加と需要減少が更なる購買力低下を招く負のスパイラルが加速する可能性が高まっています。

この状況で緊急事態宣言が解除されたとしても、急激な需要回復は期待できません。

2.「コロナ後」の消費者行動は変容する

緊急事態宣言発令により、大人数が集まるイベントやカラオケなどの自粛が要請されています。

これらのサービス事業は、緊急事態宣言の解除後も、新型コロナウィルスの感染が収束するまでの数年間は「自粛すべき事業」と指定される可能性が高いです。

スポーツ関連事業も自粛業種とされる可能性もあります。

2020年3月の外国人訪問客は前年同月比で93%の減少となりました。とても恐ろしい数字です。

https://www.aviationwire.jp/archives/200680

ここ数年の日本経済を下支えてきたインバウンド関連ビジネスが崩壊しています。

2019年のインバウンド消費は約5兆円でした。

観光庁によると、今年の1月―3月までの訪日外国人旅行消費額は前年対比で41.6%も減少しています。

http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/content/001340596.pdf

日本の緊急事態宣言が解除されたとしても、海外における新型コロナウィルスの影響が収束しない限りは国際間の人の移動は制限されます。

えぐちは毎月モンゴルに1週間程度出張していましたが、現在モンゴルでは日本からの直接入国は制限されています。

また入国後も2週間隔離されるため短期出張ができません。

このような状況は世界中で展開されていますので、誰もが気軽に海外旅行や海外出張できるようになるまでは、相当の時間が必要になると思います。

インバウンド需要の回復が期待できない「コロナ後」を想定した事業投資が必要になります。

政府による自粛要請はこれまでにない新たな生活スタイルを生み出す機会になりました。

中小企業にまでテレワークが普及し、オンライン飲み会が流行しました。

Uber Eatsのインフラが街の飲食店の配達サービスへの参入障壁を下げました。

これは市場活性化を促すメリットもありますが、自宅で代替できるサービスを経験した消費者の一定割合は、コロナ後も外食せずに在宅サービスを継続します。

もちろん自粛の反動で外食需要が一時的に急回復する期待もありますが、「コロナ再発」を恐れる一定割合の消費者は不要不急の外出を控えると考えられます。

これらの変化は決して一過性のものではなく、消費者行動の変容として国内経済に影響を与え続けると考えられます。

私たちは、景気後退に加えて経済環境の変化にも対応する必要に迫られています。

3.赤字補填でなく事業構造の見直しのための資金調達を

それでは、現状の経営危機に対し、中小企業経営者はどのような意思決定が有効になるかについて書きたいと思います。

まず改めて強調しますが、この時期の負債増加は大きなリスクとなります。

これまでと変わらないビジネスモデルを継続しても急激な需要回復は望めません。

その結果、(代表者個人保証をしている融資は)自己破産せざるを得ないという最悪の結果を招くことも想定する必要があります。

自己破産した場合、クレジットカードが作れず、一定期間、信用取引ができないなどのデメリットがあることを知っておく必要があります。

もちろん、今回の新型コロナ対策の緊急融資は、将来的に債務不履行になった場合でも、従来の融資とは異なる扱いがされる可能性もありますが、それは確定しているわけではないため、最悪を想定する必要があります。

これらのリスクを前提として、資金調達を行う際の留意点について書きます。

多くの中小企業がリモートワークを導入したように、急激な環境変化はこれまでのビジネススタイルを変革する機会になります。

これまでの常識を疑い、自社のやりかたを再考する。

変化が漸進的であれば決断しにくいことも、急激な変化、経営危機に際しては決断せざるを得なくなります。

いまをなんとかしのぐという発想を変え、変化する需要を視野に入れて自社の経営資源をリプレースする。平時ではできない意思決定も今ならできます。

中小企業には大手企業にはない強みがあります。

それは「変化への柔軟性」です。

莫大な固定費を抱える大企業にはできないことでも、中小企業なら可能です。

大手企業にはないスピードは、それ自体が競争優位の源泉です。

コロナ後の世界は未知数ですが、世界が終わるわけではありません。

国内における生活、国内における消費、国内における投資。

日本経済は確かに縮小しますが、いち中小企業として、戦い生存できる市場は必ずあります。

そのためにも、今こそ自社の経営資源を見直す必要があります。

これまで取引先が自社を評価してくれた製品やサービスがどこにあったのか、それを実現できた要因として、どのような学習、どのような経験、どのような情熱があったのかを見つめなおしましょう。

これを知覚して、自社の強みと誇れるものを可能な限り明確にしましょう。

経営者層だけで把握できなければ、従業員と話し合ってみることも効果的です。

従業員が自社に感じる価値は、対取引先の自社に対する評価の源泉でもあります。

自社の強みを言語化する試みは、経営危機に際し、従業員との共通意識を強化する価値ももたらします。

もちろん、経営者として「どこで踏ん張るのか」を覚悟するための自信にもなります。

コロナ後の世界にも、かならずあなたを必要とする顧客がいます。

しかし、その顧客はいまあなたが考えている人とはまるで違う業界の人かもしれません。

自社が自覚するサービスの価値は、必ずしも相手が認める価値と一致するわけではないからです。

そのためにも、これまで対象としてこなかった市場、これまで想定していなかった顧客をターゲットとする「可能性」を想定してください。

いまはインターネットが普及していますから、中小企業であっても大きな投資をしなくてもこれらの顧客層に到達できる機会があります。

勇気ある一歩を踏み出したら、あとは試行錯誤と市場への対応に注力するだけです。

可能な限り小さな市場を探しましょう。

それは取引先からの学習を促進させる効果を持ちます。

取引先から学び、製品やサービスを改善し、再度これを提供し、また学習する。

この繰り返しです。

中小企業であることの強みを、存分に大企業に見せつけてあげましょう。

発想を転換すれば、経営危機は必ず事業再生の機会になります。

日本政策金融公庫の融資は、最長で5年間の据え置き期間が与えられます。

https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/covid_19_m.html

借入後3年間は実質無利子になりますので、5年据え置けば2年間は金利だけ払えばよいことになります。

新しい取り組みの成果には時間がかかります。

それまでの資金を減らさないために、据え置きを検討することも有効です。

未来のための投資なら負債は正当化できます。

負債の重さとリスクを知ったうえでの借入は、「必ず再生する」という意欲を持続させます。

私も中小企業経営者の一人として、この大きな環境変化に対峙していくつもりです。