いきなり!会社分割(第1回)

えぐちです。

1次試験までのこり1週間となりましたが、都内では感染者が100名を超え、感染拡大要警戒が発令されました。

レインボーブリッジが赤くならないところが東京アラートとの違いです。

通勤電車や混雑しつつある日中の飲食店で感染拡大が起きているわけではないため「アルコールを含んだ濃厚接触」を避ければ感染する心配はないと思います。

それよりもここ1週間は天気が良くありませんので、水分補給を含め体調管理に留意してください。

さて今日は、直前期の学習の助けになればということで、会社分割について書きます。組織再編では会社分割と事業譲渡が中心に出題されますが、債権者保護手続きやら簡易組織再編やら、ふだん聞きなれない用語が頻発するため、なかなか理解がしにくい領域でもあります。

 そこで今回は、今年経営法務を受験される方の知識の定着をサポートする目的で、会社分割の具体例を紹介します。

今回学習するテーマは「会社分割」です。特に以下の知識の定着ができるようになります。

・新設分割

・簡易組織分割

・債権者保護手続き

・詐害的会社分割

みなさんよくご存じの外食チェーン「いきなり!ステーキ」を展開する㈱ペッパーフードサービスが、2020年4月30日付で、自社事業の一部を子会社化により分割することを公表しました。

https://www.pepper-fs.co.jp/_img/ir/lib/2020/20200430b.pdf

内容

⑴㈱ペッパーフードサービが保有するペッパーランチ事業を㈱JP社に承継させる

⑵新設分割計画承認日(取締役会):2020年4月30日

⑶分割期日           :2020年6月 1日

⑷株主総会特別決議:簡易組織分割を採用するため不要

※会社法第805条 新設分割により新設分割設立会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が新設分割株式会社の総資産額の5分の1を超えない場合には、株主総会による承認は不要となる

⑸分割会社:㈱ペッパーフードサービス

⑹承継会社:㈱JP(新設)

⑺対価の支払い方法:新設会社が発行する株式1,000株(資本金1,000万円)により支払う

(これにより㈱JPは㈱ペッパーフードサービスの完全子会社になります)

⑻債権者保護手続き:新設会社に分割される負債は、すべて分割会社である㈱ペッパーフードサービスが連帯債務者となる(重畳的債務引受といいます)



こんな感じです。図にすると以下のようになります。

●簡易組織再編

1次試験では平成30年度第2問で出題された論点です。

原始的解釈

簡易組織再編は、もともとは買い手(会社分割なら承継会社)のための簡易ルールで、「支払う対価が大した額じゃないなら株主の承認を得ないで買ってもいいよ」とするルールです。

具体的には、買い手が支払う対価が買い手企業の純資産額の1/5までならOKというルールです。

このため、買い手が支払う対価の額が計算できないケースではこのルールは適用されません。

このため、新たに会社を設立するケース(新設分割、新設合併、株式移転)では簡易組織再編ルールは適用されません。

事業譲渡との衡平を量る例外

昔からある事業譲渡では、事業譲渡する企業において、重要ではない資産の一部を譲渡する場合は株主総会特別による承認が不要となっています。

具体的には、総資産の1/5までの譲渡なら、株主の承諾なしで売却することが可能です。


会社分割は、平成不況(平成12年)時に、従来の事業譲渡のルールでは組織再編が遅々として進まない中で、事業譲渡のデメリットを大胆に解消する目的で生まれた制度です。

負債や従業員の移転を含めた新たな法律により、金銭によらない事業の譲渡を認めたことで組織再編は加速しました。


会社分割は、「事業の譲渡」という同じ効果をもちつつ、事業譲渡のデメリットを補う意図で制定された法律です。

しかし、「事業の一部譲渡」の場合、譲渡会社の株主総会を不要とするルールが事業譲渡のみに適用されると、会社分割のほうが手続きが煩雑になります。

同じ効果をもつのに(事業譲渡の不備を解消する意図で制定された)会社分割のほうが不便というのもおかしいので、会社分割は、事業譲渡のルールに合わせて「売り手企業の」簡易組織再編を認めました。

具体的には、事業譲渡と同様、「重要でない資産の譲渡(総資産の1/5まで)なら、株主総会は不要」というルールを適用しています。



㈱ペッパーフードサービスの簡易組織再編

では今回の事例を使って具体的に見てみましょう。

今回の会社分割は、新たに会社(㈱JP)を設立して、その会社に事業を承継させる新設分割になります。

この場合、買い手(承継)サイド(㈱JP)には簡易組織再編が適用されませんが、売り手サイド(㈱ペッパーフードサービス)は例外となります。

分割する事業資産が、㈱ペッパーフードサービスの総資産の1/5までなら株主総会は不要となるわけです。

㈱ペッパーフードサービスの総資産は約234億円で、分割対象資産は約16億円なので、㈱ペッパーフードサービスの総資産の7%程度になります。

したがって、今回の会社分割では、㈱ペッパーフードサービスでは株主総会決議は不要となります。

いかがでしょうか。

こむずかしい会社分割ですが、事例があるとすんなり理解できる気がしなくもなくもなさそうです。

第2回は債権者保護手続きについて解説します。