今年のC社

続いてC社です。

C社は、デザインを伴うビル建築用金属製品やモニュメント製品などのステンレス製品を受注・製作・据付する中小企業です。

中小企業にありがちな多品種小ロット生産ではなく、個別受注生産の企業です。

多品種小ロット生産の企業では、生産ロットサイズや段取改善が重視されますが、一品個別受注生産では、生産活動に入る前の受注活動も重視されます。

どちらも納期管理、コスト管理が重視される点は共通しています。

C社は、サッシ、手摺など建築用金属製品の特注品を製作する企業として始まりました。

特に、鏡面仕上げなど、ステンレス製品の表面品質にこだわり、溶接技術や研磨技術を研磨してきました。

その後は、装飾性の高い製品製作も受注するようになると、設計できる人材を確保して、自社で受注できる範囲を設計から製作、据付工事まで広げることで、垂直統合度を高めてきました。

3代目社長は、就任前から「うちの技術や受注体制を活かせる市場を開拓すべきだ」と考えていました。

そしてある建築プロジェクトで外装デザインを行うデザイナーから、モニュメントの製作依頼を受けた際、「これはうちの技術が活かせる。高付加価値の受注を増やせば利益率も向上できるぞ」と考え、特殊加工と仕上げ品質が要求されるステンレス製モニュメント製品の受注活動を開始しました。

現在では、受注の6割をビル建築用製品が、4割をモニュメント製品が占めるようになりました。社長はさらにモニュメント製品の受注を強化したいと考えていますが、それには乗り越えなければいけない課題や問題点が山積していました。

C社の最大の問題点は納期遅延です。

個別受注生産企業では、納期管理が最大の課題となりますが、個別受注生産形態特有の問題から、多くの中小企業は納期管理に苦慮しているのが現実です。

一般的に、個別受注生産の企業には、⑴受注変動が激しい、⑵仕様変更が多い、⑶見積りの精度が低い、⑷管理基準値が整備されていない、⑸生産計画の精度が低い、⑹負荷計画・工数計画の精度が低い、⑺作業者の稼働率が低いといった課題や問題点が生じます。

驚くべきことに、これらのすべてがC社に該当しています。

C社は、ダメな個別受注生産の日本代表企業だったわけです。

C社社長は、納期遅延を引き起こしている原因とその対策を、営業面・生産面に分けて整理しました。

まず営業部門の問題は、「受注活動のムダにより生産期間が十分に確保できないこと」でした。

その原因は、製作前のプロセスにありました。C社の受注活動における問題点の原因は、以下のように整理されました。

①営業担当者の業務負荷が大きいこと

②特にモニュメント製品の受注において、造形物のイメージの摺合わせに時間を要する場合が多いこと

③製販連携がないこと

上記①については、現状、営業担当者が受注、設計、据付工事施工管理まで担当しているため、据付工事の施工管理(現場監督です)を据付工事の外注業者に外注することにしました。

また②については、3DCADを導入することで造形物のイメージの摺合わせにかかる時間を削減できます。

そして③について、営業担当者は、受注時に生産現場の稼働状況や、生産チームの負荷状況を考慮しないで納期提示していたため、製販会議を定期的に開催したうえで、製造部門の稼働状況などを把握した上で実現可能な納期を提示するように改善しました。

つぎに、製造部門の問題点と対応策を整理しました。

まず、製造部門の問題点は、「製作期間が生産計画をオーバーすること」でした。つまり計画通りに生産できていませんでした。

その原因を整理すると、以下のようになりました。

①受注内容によって担当できない作業チームがあり、チームごとの稼働状況にばらつきがある

②生産計画の見積り精度が低い

上記①については、溶接・組立工程、研磨工程を製品別に担当していた体制を、それぞれの工程別の担当に改めました。

研磨工程は常に高度な技術が必要ですが、溶接・組立工程ではそれほど技術を要しない受注もあります。

研磨工程で必要な技術が高い場合、高度な技術チームを割り当てざるを得ないので、溶接・組立工程だけ担当できるチームがいつも遊んでしまい、技術力の高いチームに作業が集中することになります。

工程別の担当に改めたことで、技術力の低いチームが溶接・組立工程のみを担当できるようになり、作業チームの余力が調整しやすくなりました。

また作業チーム間のローテーションなどにより、チームごとに差のある技術レベルの底上げにも取り組みました。

②については、月1回の生産計画のサイクルを短くして、受注後の仕様変更、図面変更による生産期間への影響を反映できるようにしました。

定期的な製販会議により、仕様変更などの情報を適時営業部門と共有することで、製造部門における生産計画の精度を高められるように改善しました。

また、工程順序や工数見積もりなどの標準化に取り組むことで、管理基準値を設定しました。

これにより、手順計画の精度を高められ、負荷計画や生産スケジューリングの精度が改善しました。

結果として、生産計画の精度が改善し、納期遅延の抑制に繋がっています。

上記のような生産管理の改善に取り組んだ上で、C社は、社内のIT化によっても納期遅延を防止しようと考えました。

具体的には、CAD/CAMを導入することでNCデータ作成を自動化して、切断加工工程と曲げ加工工程の生産性改善に取り組みました。

また、営業部がもつ仕様変更や図面変更などの情報や、製造部がもつ生産計画や進捗状況の情報を社内共有することで、情報共有や打ち合わせに必要な手間や時間を削減しました。

これらの取り組みにより、納期遅延が抑制されただけでなく、作業者の稼働率も大幅に改善しました。

納期遅延問題を解決できたC社は、今後の収益拡大のために、モニュメント製品の受注拡大を図りたいと考えています。

まずC社は、3D CADを導入により、最終検査時の修整などが削減されました。

高さ7m以内の製品しか受注できない工場建屋の制約や、受注の大型化によって狭隘な状態が進行している作業スペースについては、工場の立て直しも検討しています。

工場は改築してすでに10年が経過していますので、そろそろ建て替えしてもよいと考えています。

これらの課題をクリアしたうえで、C社の強みである溶接技術や研磨技術や、装飾性の高い受注に対応できる経験をデザイナーに訴求したり、建築プロジェクトに積極的に参加することで、都市型建築需要の拡大を機会としてモニュメント製品の受注強化に取り組んでいきたいと考えています。

モニュメント製品は受注変動が激しいですが、改善した生産管理体制と、今後の受注増加によって十分に吸収できると考えています。