出題の趣旨を踏まえた令和3年度の事例Ⅳ

えぐちです。

出題の趣旨シリーズさいごは事例Ⅳです。

EBAが考える令和3年度の事例Ⅳ物語はこちらをお読みください。


第1問(配点30点)
(設問1)
 D社と同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較してD社が優れていると考えられる財務指標とD社の課題を示すと考えられる財務指標を2つずつ取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、その値を(b)欄に記入せよ。なお、優れていると考えられる指標を①、②の欄に、課題を示すと考えられる指標を③、④の欄に記入し、(b)欄の値については、小数点第3位を四捨五入し、単位をカッコ内に明記すること。

【出題の趣旨】
財務諸表を利用して、診断及び助言の基礎となる財務比率を算出する能力を問う問題である。

追加的情報はありません。

(設問2)
D社の財務的特徴と課題について、同業他社と比較しながら財務指標から読み取れる点を80字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
財務比率を基に、事例企業の財務的特徴とリスク要素を分析する能力を問う問題である。

設問の「課題」が「リスク要素」に変換されました。これにより課題=将来に向けて取り組むべき事象でなく、リスク要素(ネガティブな要素)という解釈ができます。

試験委員の齋藤正章氏の著書(共著)「ファイナンス入門」の47ページでは、リスクについて以下のように記述しています。

「一般的にリスクとは、将来の不確実な事象の発生から生じる、経済的損失と定義できる」

この定義に従えば、リスク要素とは「将来の不確実な事象の発生から生じる、経済的損失の態様」という解釈になります。
上記から、問題点と課題を比較した場合、前者は「顕在化した事象(≒経済的損失」、後者は「潜在的な事象(=経済的損失)」として識別できます。
試験委員全員が同様の用語の使用方法を採用していると仮定した場合、事例Ⅰ〜Ⅲにおいても同様の解釈が必要になると考えられます。

第2問(配点30点)
(設問1)
 D社が2023年度期首でのセミセルフレジの更新ではなく、2022年度期首にフルセルフレジへと取替投資を行った場合の、初期投資額を除いた2022年度中のキャッシュフローを計算し、(a)欄に答えよ(単位:円)。なお、(b)欄には計算過程を示すこと。ただし、レジの取替は2022年度期首に全店舗一斉更新を予定している。また、初期投資額は期首に支出し、それ以外のキャッシュフローは年度末に一括して生じるものとする。

【出題の趣旨】
設備更新投資において、耐用年数を残した旧設備を売却し新設備へと更新を行う場合における財務面での変化を整理し、初年度の差額キャッシュフローを算出する能力を問う問題である。

趣旨において「差額キャッシュフロー」と明示されており、取替投資による差額計算をさせる意図があったことがわかります。

(設問2)
当該取替投資案の採否を現在価値法に従って判定せよ。計算過程も示して、計算結果とともに判定結果を答えよ。なお、割引率は6%であり、以下の現価係数を使用して計算すること。

【出題の趣旨】
設備更新投資における毎期の差額キャッシュフローを計算し、正味現在価値を算出する能力を問う問題である。

(設問1)と同様、差額キャッシュフローを求めたNPVの計算問題であったことがわかります。

(設問3)
取替投資を1年延期し2023年度期首に更新する場合、フルセルフレジが1台当たりいくら(付随費用込み)で購入できれば1年延期しない場合より有利になるか計算し、(a)欄に答えよ(単位:円)。なお、(b)欄には計算過程を示すこと。ただし、更新されるフルセルフレジは耐用年数5年、残存価額0円、定額法で減価償却する予定である。また、最終的な解答では小数点以下を切り捨てすること。

【出題の趣旨】
設備更新投資において、更新時期を遅らせるという代替案が正味現在価値上有利となるための条件を求める能力を問う問題である。

特に追加的情報は提供されませんでした。

第3問(配点20点)
(設問1)
D社は、当該事業をスタートするに当たり、年間1,500万円の利益を達成したいと考えている。この目標利益を達成するための年間販売数量を求めよ(単位:kg)。なお、魚種Xの1kg当たり販売単価は1,200円とし、小数点以下を切り上げて解答すること。

【出題の趣旨】
短期利益計画の策定に利用する損益分岐点分析において、与えられた情報を用いて目標利益を達成する販売量を算出する能力を問う問題である。

特に追加的情報は提供されませんでした。

(設問2)
この販売計画のもとで、年間1,500万円の利益を達成するための年間販売数量を計算し、(a)欄に答えよ(単位:kg)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。なお、最終的な解答では小数点以下を切り上げすること。

【出題の趣旨】
目標販売量に応じて販売単価の設定が異なる場合において、与えられた条件に基づいて目標利益を達成するための販売量を算出する能力を問う問題である。

特に追加的情報は提供されませんでした。

第4問(配点20点)
D社は現在不採算事業となっている移動販売事業への対処として、当該事業を廃止しネット通販事業に一本化することを検討している。

(設問1)
移動販売事業をネット通販事業に一本化することによる短期的なメリットについて、財務指標をあげながら40字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
不採算事業の状況を把握するとともに不採算となる要因を分析し、それを踏まえて対処法である業務統合が与える財務指標への短期的効果について適切に助言する能力を問う問題である。

不採算事業の状況把握と不採算要因を分析することが期待されていたことがわかりました。与件情報では、

「これらの事業は、主な事業との親和性やシナジー効果などを勘案して展開されてきたものであるが、移動販売事業は期待された成果が出せず現状として不採算事業となっている」

との記述があり、移動販売事業の不採算要因が「主な事業との親和性やシナジー効果」が不十分であることがわかります。範囲の経済によるコスト削減効果や売上相乗効果が得られずに不採算事業化したと判断できます。

上記の対処法として移動販売事業を廃止してネット通販事業に業務統合とするしています。これによる財務指標への短期的効果としては、与件根拠から①自社保有の小型トラック、②販売業務を行う店舗従業員コストの削減が期待されていたと判断できます。

(設問2)
D社の経営者は移動販売事業を継続することが必ずしも企業価値を低下させるとは考えていない。その理由を推測して40字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
不採算事業の特徴を理解し、その継続による企業価値への影響を長期的観点から適切に助言する能力を問う問題である。

「不採算事業の特徴を理解」「長期的観点」という表現が追加されています。

これにより、移動販売事業は現時点では不採算事業ですが、長期的にはD社の「企業価値の低下を抑制」できると解釈できます。

与件から、D社の移動販売事業は

「D社が事業活動を行っている地方都市において高齢化が進行していることから、自身で買い物に出かけることができない高齢者に対する小型トラックによる移動販売を行うものである。」

とあり、「高齢化の進行」により長期的には移動販売事業の利用客が増加すると推測できます。それは同時にスーパーマーケット事業の顧客減少を意味するわけですが、移動販売事業を継続することで離反する顧客をD社内部に留めることができ、D社の売上維持に貢献することが期待できます。

つまり、移動販売事業の継続は、高齢化進行によるスーパーマーケット事業の売上減少というマイナスを、移動販売事業の売上増加によるプラス効果で補えるため、D社グループの売上高は維持される。つまり企業価値は低下しないという解釈ができます。よく練られた良問です。

以上、出題の趣旨を踏まえた令和3年度の事例問題でした。

こうして見ると、かなり有益な情報が提供されていたことがわかります。特に趣旨において理論言語が多様されていることから、2次筆記試験では理論に依拠した解答作成が期待されていることが理解できると思います。

令和4年度に2次筆記試験に挑戦される方は、ぜひ手を動かして設問と出題の趣旨を比較してみましょう。
読むだけでは得られない気づきが得られると思います。