令和4年度のB社物語

B社は資本金3,000万円、従業者数は45名(うちパート従業員21名)の、食肉と食肉加工品の製造・販売を行う事業者です。

牛肉・豚肉・鶏肉・食肉加工品を取り扱っており、本社と自社工場、そして直営小売店があります。


B社の商品はクオリティの高さに定評があり、良質でおいしい食肉加工品を自社ブランドや相手先ブランドで提供することができ、多様な食肉の消費機会に対応することができます。

競合には大手食肉卸売業者や、広い駐車場を持つ全国チェーンスーパー、そして大手ネットショッピングモールの食肉販売業者がいます。


B社の卸売先は昔からの取引先である百貨店やスーパーと、県内や隣接県のホテル・旅館、飲食店などですが、ホテル等はコロナ禍にあって売上が激減しており、売上の多くの卸売事業に依存するB社も影響を受けています。


このような中、B社は、X県から「地元事業者と協業し、第一次産業を再活性化させ、県の社会経済活動の促進に力を貸してほしい」という依頼を受けました。

X県の活性化は売上の多くを卸売に依存するB社にとっても重要な課題です。

そこでB社は、自社の製造加工技術力を生かして新たな商品開発に取り組むことにしました。


まずB社は、商品コンセプトを明確にしました。

X県は、都市部と自然豊かな場所がともに存在し、高速道路で行き来できます。

また、野菜・果物・畜産などの農業、漁業、機械や食品などの工業、大型ショッピングセンターなどの商業、観光サービス業がバランスよく発展しています。

山の幸、海の幸の特産品にも恵まれ、大規模な集客施設もあれば、四季それぞれに見どころのある観光エリアもあります。

そこでB社は、都市部からX県を訪れる来街者向けに商品を開発すべきだと考えました。

B社は食肉加工業なので、X県の特産品である食肉を使用した贈答品や土産品を開発することにしました。

これを地域ブランド商品として開発して地域の魅力を訴求することで観光客を誘致し、B社の取引先でもあるX県内の観光事業者の活性化に貢献することが期待できます。


次に販路ですが、B社はすでに百貨店向けに贈答品の商品開発や納入の実績がありますので、百貨店を販路として活用できます。

またB社は、自社の食肉加工品を直営小売店や高速道路の土産物店、道の駅などで販売しているため、これらの販路を活かすこともできます。

さらに、旅館や飲食店の利用客のお土産として販売してもらうことで、観光客の増加が期待されます。

この取り組みはB社にとって、売上の多くを依存するB2B取引の改善だけでなく、課題でもある最終消費者向けの販売を強化する機会にもなります。


コロナの影響によりB社の売上は大きな打撃を受けましたが、その中で健闘したのがB社の直営小売店でした。

B社はこれまで、直営小売店は特に何も手を打ってこなかったのですが、コロナ禍の巣篭もり需要拡大の影響を受けて販売が急上昇しました。

これを機会と捉えたB社は、アフターコロナを見据えて、直営小売店の販売力強化に取り組みました。

販売の強化でなく販売の強化です。

つまり直接の売上増加でなく、売上の増加機会となる店舗の集客力向上に取り組みました。


コロナ禍で来店する顧客を調査した結果、B社の直営店の来店客は大きく2つのタイプに分かれることがわかりました。

1つは、コロナ禍で料理の楽しさに覚醒した客で、もう1つは、作りたての揚げ物を買い求める客でした。

B社は、それぞれの来店目的に合わせた品揃えの見直しに取り組みました。


B社はさまざまな食肉の消費機会に対応できる事業者です。

卸販売のスーパー向けには食卓で日常使いしやすいカット肉やスライス肉などの販売を行っていますが、直営店では対面接客による買物客のニーズに合わせた販売を行っています。

対面接客なので、ショーケースを間に挟んで来店客の都合を聞きながら商品を提案する販売方法です。

この販売方法は、料理の楽しさに目覚めた客にとっては敷居が高く感じるかもしれません。

そこで、スーパー向けに販売しているような、食卓で日常使いしやすいカット肉やスライス肉などを販売することにしました。

また食肉の加工品は、自社ブランド商品の品揃えを強化することで近隣スーパーと差別化を図ることもできます。


また、作りたての揚げ物を求める客に向け、食肉専門店の強みを活かし、揚げ物惣菜の品揃えを強化しました。

B社周辺には工業団地に勤める現役世代が家族で居住する集合住宅が多いため、品揃えを見直すことで、彼らを集客することが期待できそうです。

直営小売店の販売力強化と、地域との協業を通じた高速道路の土産物店や道の駅などでの販売強化により、B社は自社チャネルを活かして最終消費者向けの販売を伸ばすことが期待できそうです。

これらの施策と合わせて、B社はさらにオンラインでの最終消費者向けの販売強化にも取り組みました。


B社はよせばいいのに、東京オリンピックのインバウンドバブルを期待して食肉の冷凍在庫をしこたま積み増していました。

スケベ心が裏目に出て、コロナによりインバウンドバブルは見事にはじけ、工場は冷凍在庫の山で足の踏み場もなくなりました。

そこでB社は在庫処分のために大手ネットショッピングモールに出店し、焼肉やステーキ用として冷凍肉を販売しましたが、どの業者も考えることは同じで、大手ネットショッピングモールは冷凍肉のカオスになりました。

当然B社の紹介ページはネットに埋もれ、誰の目に止まることもなく失敗に終わりました。


従業員給与を冷凍肉の現物支給にしようとするコンプライアンス感ゼロのB社社長を説得し、専務を務める息子が再度オンライン販売に挑戦することを提案しました。

専務は焼肉強食のオンライン販売の世界で自社単独で勝負するのは分が悪いと考え、オンライン販売事業者と協業によって取り組むことにしました。


冷凍肉のオンライン市場は変わらず同業他社で溢れています。

せっかくオンラインで販売しても再び誰の目に止まらないなんてことがないように、B社はクオリティの高い食品を求める人を顧客として獲得している販売事業者と協業することにしました。

百貨店やスーパーを取引先としてきたこともあって、B 社の商品はクオリティの高さに定評があります。

カオス状態のオンライン市場で協業他社と差別化するためにも、専務はB社が扱う商品と同等のクオリティの食品を販売する業者と組む必要があると考えました。


ある日専務がYouTubeで情報収集していたところ、白地にほと書かれたあやしいネクタイをつけた、それでいてやたらと腰の低い中小企業診断士を偶然見つけました。

彼は日本政策金融公庫の『消費者動向調査』を紹介していました。

調査結果によれば、家庭での食に関する家事で最も簡便化したい工程は「献立の考案」(29.4 %)、「調理」(19.8 %)、「後片付け」(18.2 %)、「食材の購入」(10.7 %)、「容器等のごみの処分」(8.5 %)、「盛り付け・配膳」(3.3 %)、「特にない」(10.3 %)とのことでした。


専務はこの調査結果から、コンサルテーションで培ったノウハウが活かせると考えました。

なかでも、途中工程までの調理した商品の加工ノウハウは、「調理」を簡便化したいニーズに適合します。

また、飲食店に対するメニュー提案ノウハウは、「献立の考案」を簡便化したいニーズに適合します。

B社のノウハウを活かした商品を販売し、献立情報を提供することで顧客を獲得することが期待できます。


B社はオンライン販売業者に対して、共同開発ブランドで商品を販売しようと提案しました。

協業先にとって、クオリティの高さで定評のあるB社ブランドを活用できることは大きな武器になると思われます。

相手先ブランドで販売した場合は、協業先が在庫リスクを抱えることになるので話に乗ってこないでしょう。

B社にとっても、最終消費者と直接結びつく事業領域を強化するという課題を達成することが難しくなります。

お互いがメリットとリスクを共有できる共同開発ブランドにすれば、両者の問題を解消しつつ、協業を長期的に成功させることができそうです。