令和4年度のC社物語

C社は資本金2,500万円、従業員60名の金属製品製造業です。

売上の7割がプレス加工製品、残り3割が板金加工製品です。

プレス加工製品は金型を使用して成形する鍋、トレー、ポットなどの繰返受注製品で、板金加工製品は鋼材を切断や曲げ、溶接加工して製作する調理台、収納ラック、ワゴンなどの個別受注製品です。

どちらもホテル、旅館、外食産業などの調理場で使用される製品で、業務用食器・什器の卸売企業2社を販売先としています。

近年までは観光需要で受注量は毎年増加していたのですが、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大による外国人の新規入国規制や、外食産業の営業自粛による影響を受けて受注が減少しています。

外食産業向け製品市場に依存しているC社にとっては、新たな市場の取引先を確保することが課題となっています。


C社の主力製品であるプレス加工製品の新規受注は、新規引合いから量産製品初回納品まで長期化することがありますが、プレス加工製品は短納期生産が一般化しています。

そこでC社は、新規受注の短納期化に取り組むことにしました。


新規受注の短納期化のための最優先課題は金型製作期間の短縮です。

金型の設計開始から完成までの金型製作期間は短いもので約2週間、長いもので約1か月を要します。

これに対して、製品量産工程の段取作業時間(金型交換作業と材料準備作業に要する時間)は、長くても1時間程度です。

両者を比較した場合、金型製作期間の短縮を優先すべきと判断できます。


C社が金型製作工程を調査したところ、いくつかの問題を見つけることができました。

1つは金型設計業務における混乱(CONRAN)です。

C社の設計課では、金型設計を行う担当者が個別受注の板金加工製品の製品設計も担当しています。

そのため、設計業務に混乱が生じて金型制作期間全体に影響しています。

そこで、金型設計と板金加工製品の製品設計担当を分けることで混乱の解消を図りました。

2つめに、金型設計後の金型製作課の業務改善に取り組みました。

ここでは金型部品加工、金型組立、金型仕上作業を経て試作確認を行います。

この工程のうち金型組立と金型仕上は製品の品質や製造コストに影響を及ぼす重要なスキルが必要なためベテラン技能者が担当しているのですが、技能者が高齢化しています。

さらに担当者は金型の修理や改善作業も兼務しています。

そこでこの工程の兼務を解消し、金型の修理や改善作業を若手従業員に任せて経験を積ませることで、技能養成に取り組むとともにベテラン技能者が金型組立と金型仕上に専念できるようにしました。

さらにCAMを導入することで、金型設計データから金型部品加工データを自動生成することができるようにしました。

これらの取り組みにより、金型設計と金型製作作業の生産リードタイムを短縮することができます。


金型製作工程の作業改善に取り組んだC社は、つぎに製品量産工程の生産性向上に取り組みました。

最近では販売先からの発注ロットサイズが減少しています。

また、現在新規取引の引き合いがきているホームセンターX 社との取引は、 1 回の発注ロットサイズがさらに小ロット、かつ短納期になることがわかっています。


C社の生産計画は、発注元から納品月の前月中旬に製品別の生産依頼数と納品指定日が通知され、それに基づいて毎月月末までに月度生産計画を作成しています。

生産計画は各製品の1日間の加工数量でそれぞれの基準日程を決めて立案し、発注元へは月に1回納品しています。

最近は発注ロットサイズが減少しているため、受注量以外はC社内で在庫しています。

また、新規取引となるX社向け製品の納期は発注日から7日後の設定で、1回の発注ロットサイズは現状のプレス加工製品と比べるとかなり小ロットになります。


このような変化に対してC社は「小ロットかつ短納期に対応できる生産体制の構築」を課題としました。

そのために、まずは生産計画の作成方法を見直しました。

新規取引先X社への短納期に対応するためには、現状の月1回の生産計画ではサイクルが長いため、生産計画の作成サイクルを月次から週次に変更します。

さらに、現状の固定的な生産ロットサイズは、確定受注量に合わせて小さくします。

また、プレス加工製品の生産計画は第1工程である「プレス加工」の計画だけが立案されており、後工程の「製品部品組付」、「製品仕上」はプレス加工終了順に作業しています。

短納期に対応するために、これを最終工程となる「製品仕上」の加工完了日を基準に計画を作成するように変更します。

また資材発注についても、現状の月に1回のサイクルでは短納期に対応できないので、生産計画の作成サイクルに合わせて短くしたうえで、納期管理をすることで資材欠品を防ぎます。

これらの対応により、生産管理面の改善が期待できます。


一方で、小ロット生産に切り替えることにより、製品品種を切り替える回数が増加するため、プレス工程の段取り回数が増加します。

そのため、段取り改善にも取り組む必要があります。

C社の「プレス加工」は生産能力に制約があり、C社全体の生産進捗に影響しています。

現在は、プレス加工機ごとに担当する作業員が材料の出し入れと設備操作を行い、加工製品を変えるときには、その作業員が金型交換作業と材料準備作業など長時間の段取作業を一人で行っています。


段取り回数の増加という問題に対しては、生産ロットサイズを縮小したことによって生まれたプレス加工の余力を生かすことができます。

これまでC社は受注量以上に生産してC社内で在庫していました。これはC社にとって、過剰在庫という問題とは別に、生産余力不足という問題をもたらしています(売れない在庫に工数をかけているため)。

今回、受注量に合わせて生産量を少なくすることにより、現有の従業員のままで生産余力が生まれるため、この余力を製品切り替え時の金型交換作業や材料準備作業を行う段取要員に充てることができます。

これにより段取作業時間を削減することができます。これらの生産管理面、生産現場面の対応を通じて、C社は取引先の小ロット化・短納期要求に対応することができそうです。


C社は、ホームセンターX 社との新規取引を契機として、生産業務の情報の交換と共有についてデジタル化を進め、生産業務のスピードアップに取り組みたいと考えました。

現在、C社内の受注から納品に至る社内業務では、各業務でパソコンを活用していながら、情報の交換と共有はいまだに紙ベースで行うなんちゃってデジタル管理のままです。

そこでC社は、これらの生産管理情報のデジタル化を優先して社内活動に着手しました。


C社とX社との新規取引では、四半期ごとにX社が立案する商品企画と月販売予測がC社に情報提供されます。

この情報を生産業務のスピードアップに活用できるようにするため、パソコン内で業務別に管理している生産管理データを統合したうえで社内共有します。

これによりX社の情報が資材調達計画やプレス加工の工数計画に反映できるようになり、生産計画の精度を高め、生産リードタイムを短くすることが可能になります。


C社は取引先が外食産業に偏っていたことにより、コロナで受注が減少する影響を受けました。

外食産業以外の取引先開拓するという課題を抱えていたC社にとって、ホームセンターX社からの新規取引は大きな転換の機会となりました。

X社はコロナ禍にあってもアウトドア商品の売上が順調に推移していたのですが、コロナによって生産委託先である中国や東南アジア諸国の企業の生産が遅れ、サプライチェーンの維持が困難になりました。

今後も海外生産委託商品の仕入れ価格の高騰が懸念されることから、生産委託先をC社へ変更することにしました。

X社からの受注は、アウトドア用PB商品のうち、中価格帯の食器セット、鍋、その他調理器具などアルミニウム製プレス加工製品となりますが、C社社長は、今後高価格な製品に拡大することも期待しています。


コロナという環境変化によりC社の経営は大きな打撃を受けましたが、一方で経営を革新するための契機にもなりました。

今後もX社と同様に、海外に生産委託している企業の国内回帰は進むと思われるため、C社にとっては外食産業以外の取引先を獲得する機会となります。


C社は難易度の高い金型製作技術の向上に努めてノウハウを蓄積してきたため、取引先に対してコスト低減や生産性向上に結びつく提案ができる強みがあります。

この強みは仕入価格高騰を懸念する海外生産委託企業に価格面の優位性を訴求することができます。

さらにC社は、X社との取引を通じて短納期・小ロットの供給体制を構築するため、取引先企業の生産・物流面のサプライチェーンの維持にも貢献できます。

これらの提案は、価格面・生産物流面の課題を抱える海外生産委託企業には魅力的に映ることでしょう。


C社とX社との出会いのきっかけは、数年前に出展した雑貨・日用品の商談会でした。

X社から生産の打診がくるまでに数年かかりましたが、コロナ禍の現在、X社と同じような課題を抱える企業は多数存在すると考えられますので、現在ではこの展示会を新たな顧客を獲得するためにチャネルとして活用できます。

これらの取引先から高価格PBの生産委託を獲得することで、外食産業依存からの脱却を図るだけでなく、生産の高付加価値化も実現できます。