令和6年度の2次試験対策(事例Ⅲ)

12月23・24日の2日間で沖縄地区の1次試験の再試験が無事に行われました。受験された方、主催運営された方、年末のお忙しい中で本当にお疲れ様でした。

再現答案採点サービスの採点がすべて完了しました。今年は423名の方にご協力をいただきました。お申し込みいただいた方に改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

今年は採点スケジュールの関係で受付人数を制限させていただきました。申し込みできなかった方には申し訳ありませんでした。

今日は、事例Ⅲを取り上げ、令和6年度の2次試験対策について書きたいと思います。


1.事例Ⅲの難易度を左右する要因【ゴール設定】

事例Ⅲの難易度はゴール設定のしやすさで決まります。ゴール設定とは、その問題の結論のことで、EBAでは「期待効果」と表現しています。

具体的には「納期遅延の解消」「生産リードタイム短縮」「収益性向上」「生産能力の向上」などがあります。

以下の表は、令和5年度事例ⅢのEBAが設定した各問題のゴール(期待効果)です。

設問内の表現設問から想定したゴール
第1問強みを2つ述べよなし(強みを指摘する問題)
第2問最近の増加する受注量の対応に苦慮している。生産面でどのような対応策が必要なのか生産能力向上
第3問収益性の低下が生じている。どのような対応策が必要なのか収益性向上
第4問創業から受託品の製造に特化してきた C 社は、どのように製品の企画開発を進めるべきなのか製品の企画開発の成功
第5問このC社社長の構想について、その妥当性とその理由、またその際の留意点をどのように助言するかなし(留意点を指摘する問題)


2.第2問と第3問の難易度を評価する

先に結論から書くと、第2問ははるかに難易度が高い問題となります。

その理由を説明します。

第2問と第3問の難易度が異なる最大の要因は、1で書いた「ゴール設定」の容易さです。

第3問は設問に「収益性の低下」という問題点が明示されているため、ゴールは「収益性の向上」であり、与件には収益性が低い要因が具体的に示されていると考えることができます。

一方で第2問は、「増加する受注量の対応に苦慮している」ことから、「受注量増加に対応→生産能力の向上」という課題を想定することができます。

しかし、「生産能力が低い」根拠を与件で特定することは、「収益性が低い」根拠を特定するよりも難しいため、対応づけに時間がかかってしまったり、無関係な与件根拠を引用してしまったりするなど、不確実性が高くなります。

第2問が「課題解決型」の問題であるのに対して、第3問は「問題解決型」の問題になるため、与件根拠が特定しやすくなります。

下表は、2つの生産問題について、EBAが与件で対応づけたゴールと、再現答案で多かった解答のゴールです。

与件から対応づけるゴール(EBA)再現答案で解答されたゴール(与件に根拠があるもの)
第2問④食材や調味料の納品遅れ防止①食材や調味料の納品遅れ防止(6%)
第3問①廃棄の削減
②食材や調味料の在庫削減
①廃棄の削減(71%)
②食材や調味料の在庫削減(61%)
③食材や調味料の納品遅れ防止(14%)

データで明らかなように、第3問では60%〜70%の受験生が適切な与件根拠を対応づけることができていますが、第2問に「食材や調味料の納品遅れ防止」を対応づけた受験生はわずか6%にとどまります。

この根拠を第3問に対応づけた受験生も14%しかいません。この根拠はどの問題に対応するかの判断が難しい根拠だったことがわかります。

2次試験は相対評価の試験なので、多くの受験生が得点できる問題で確実に得点を積み上げる必要があります。

そして、設問ごとに難易度は大きく異なるため、「難易度の低い問題の見極め」が評価に大きく影響することになります。

すべての問題を無差別に処理すると、得点を積み上げにくい問題に無駄に時間をかけてしまうことになりかねません。

今年の事例Ⅲなら、第2問よりも明らかに第3問が重要な問題だったわけです。

3.令和6年度試験に向けての対策

以上を踏まえ、令和6年度試験における有効な対策を書きます。対策は、大きく3つ上げることができます。

①適切な難易度の評価と優先順位づけができること
②予め理論を想定してから与件根拠を特定できること(与件を剥がす能力)
③理論と与件根拠に沿った助言ができること


①適切な難易度の評価と優先順位づけができること

これは事例Ⅲに限らず、すべての事例問題に言えることです。5問程度の問題の難易度を評価し、「時間をかければ十分に得点を積み上げられる問題」を特定できる能力は、2次試験を攻略するうえで最も重要な力と言えます。難易度の評価は複数の要素を組み合わせて行いますが、そのうちの1つを今回紹介させていただきました。

②予め理論を想定してから与件根拠を特定できること(与件を剥がす能力)

ゴール設定ができたあとは、各設問に対応する与件根拠と、対応しない与件根拠を区別する必要があります。この力が弱いと、与件と乖離した抽象的な解答に偏りがちになり、それだけ得点機会も少なくなります(在庫適正化・情報共有化・生産性向上だけ書いても加点されにくいと考えられます)。

令和5年の事例Ⅲなら、以下の想定ができれば与件根拠の特定が容易になります。

第2問 
設問解釈時点:生産能力向上→生産計画の精度向上
与件根拠:資材の納入管理による納品遅れ(による作業手配の無駄)の解消

第3問 
設問解釈時点:(材料価格高騰に対応した)収益性向上→材料の無駄の解消
与件根拠:在庫削減による在庫費用、廃棄削減による廃棄ロスの解消


設問に対応する与件根拠を特定する能力は、事例Ⅲなら生産管理等の理論を正しく使用できる能力に依存します。この能力は主に1次試験の運営管理で鍛えることができます。以下は、令和5年度1次試験運営管理(再試験)の第2問です。

令和5年度1次試験(再試験) 運営管理
第2問
 需要が安定せず、加工方法が多様な寿命の短い製品の多種少量生産に関する記述として、最も適切なものはどれか。

×ア 加工品の流れが一定ではないので、製品別レイアウトを導入する。(多種少量生産は一般的に機能別レイアウトを採用します)
×イ 需要の動向にあわせて頻繁に生産計画を変更することが必要なので、MRP を導入する。(MRPは需要が安定し、生産量が多い製品で導入します)
×ウ 需要変動に対し、生産量を変動させるのではなく、完成品在庫をもって対応する。(寿命が短い製品を多種少量生産する場合、生産量を柔軟に変動させることで需要変動に対応します)
×エ スループットタイムを短くし、コストダウンを図るために、専用ラインを導入する。(加工方法が多様な製品では専用ラインを導入してもスループットタイム(1単位あたり生産時間)は短縮できません。スループットタイムを短くする場合は生産ロットサイズを小さくして工程間仕掛品を減らすことで対応します)
○オ 部品の共通化や標準化などにより、製品や加工順序の多様性を吸収する。(部品が共通化・標準化されることで、多様な製品に少ない部品で対応できるようになります(モジュール型のイメージ))

令和5年度1次試験(再試験) 運営管理第2問
選択肢ごとの○×とかっこ内の解説はEBA中小企業診断士スクールにより加筆


 理論とは因果関係の連鎖のことです。たとえば以下のようなものがあります。

小ロット生産→工程間仕掛品抑制→生産リードタイム短縮→短納期対応
小ロット生産→作りすぎの無駄を解消→生産余力の確保→受注増加への対応
小ロット生産→段取り回数増加


上記の例のように、1つの原因が異なる結果につながるケースはよくあります。

このため、どの因果関係を採用するかは、設問の制約条件や与件根拠の表現によって判断することになります。

この作業は慣れるまではたいへんですが、与件根拠を適切に剥がす能力の強化に役立ちます。

③理論と与件根拠に沿った助言ができること

事例問題は与件根拠を踏まえた解答が求められます。そのため、理論を用いた解答であっても(理論的には妥当であっても)、与件を無視した解答は評価されにくいと考えられます。

与件を踏まえた(=意識した)解答でない場合も同様です。

たとえば令和5年度の第2問では、生産能力向上のために月度生産計画の作成サイクルを短くする(もしくは短いサイクルで修正する)ことは理論的に適切と言えます。

より具体的には、「販売先への日ごとの納品は、宿泊予約数の変動によって週初めに修正し確定する。」という与件根拠を意識して、「月度生産計画を週初めに修正する」と解答することで、与件の状況を踏まえた助言として採点者に伝わります。

「生産計画短サイクル化・日次化」と言った解答と比べると、採点者に与える印象はかなり違うと思います。

ここ数年、再現答案では「標準化」「DB化」「生産計画短サイクル化」「小ロット化」「在庫適正化」「シングル段取り化」「材料調達や在庫管理の簡素化」などのテンプレート的な解答が急増しています。このようなキーワードを使用する解答には、因果関係<物量重視の傾向があります。

これらのテンプレート的なキーワードが加点されているかどうかは知る由もありませんが、2次試験は相対評価の試験ですから、誰でも(与件と無関係に)書ける便利な解答が昔と変わらずに評価されていると考えるのは危険かもしれません。

最後に、EBAの最終チェック模試の問題を紹介します。最終模試は本試験の1週間前(教室生は2週間前)に得模擬試験です。

本試験問題(令和5年度 事例Ⅲ)EBA最終チェック模試
第2問
 C社の製造部では、コロナ禍で受注量が減少した2020年以降の工場稼働の低下による出勤日数調整の影響で、高齢のパート従業員も退職し、最近の増加する受注量の対応に苦慮している。生産面でどのような対応策が必要なのか、100字以内で述べよ。
第3問
C社は自社ブランド製品の販売を強化していく方針である。自社ブランド製品の受注増加を踏まえた生産面の課題と対応策を100字以内で助言せよ。
第3問
 C社では、最近の材料価格高騰の影響が大きく、付加価値が高い製品を販売しているものの、収益性の低下が生じている。どのような対応策が必要なのか、120字以内で述べよ。
第2問(設問2)
 Y社からの生産要請は厳しい受注単価が提示されている。C社が収益を改善するために、社内の生産体制をどのように改善すべきか。120字以内で述べよ。

生産面の2つの問題のテーマが、それぞれ①生産能力向上、②収益性向上になっています。以下、解答例です。

本試験問題(令和5年度 事例Ⅲ)EBA最終チェック模試
第2問
【EBA解答例】
製品仕様は文書化して整理し、標準化してパート従業員を指導する。惣菜製造班のレイアウトを製造工程順に変更する。月度生産計画を週初めに修正して食品商社と共有し、資材管理課が納入管理を行い納入遅れを防止する
第3問
【解答例】
生産リードタイム短縮が課題。外注先企業の稼働状況を事前に把握して発注先企業を決め、納入管理を行い納品遅れを防止する。製造品質の評価基準を設けて外注先企業の品質を管理することで納品遅れや手直しを解消する。
第3問
【EBA解答例】
食材や調味料は実際の消費量や在庫量に基づき必要量を見積り、週次で発注する。入出庫記録を作成して現品管理を行い、食材や調味料の実在庫を把握して不要な発注をなくし、在庫減少により在庫費用を削減する。消費期限まで管理することで廃棄ロスを削減する。
第2問(設問2)
【解答例】
仕上工程における機械加工後の補修作業方法を標準化して不良品を削減する。負荷計画を作成して計画的に人員配置することで連日の残業対応や割高な特急外注をなくす。資材発注サイクルを短くして発注量を少なくすることで在庫管理を容易化し、過剰在庫をなくす

いずれの問題も①材料の納品遅れの解消、②過剰在庫の抑制になっています。

令和5年度の事例Ⅲを想定した問題になっており、事前に解いておくことで与件根拠の切り分けが容易になったかと思います。