出題の趣旨を踏まえた令和5年度の事例Ⅰ

1月31日に口述試験結果が公表されました。

https://www.j-smeca.jp/attach/test/r05/r5_2ji_toukei.pdf

出題の趣旨も公表されています。

https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/010_c_r05_shiken/R05_2ji_shushi.html

今年も出題の趣旨を踏まえて令和5年度の2次試験を振り返りたいと思います。

令和4年度の振り返りはこちらをお読みください。

第1問(配点20点)

 統合前のA社における①強みと②弱みについて、それぞれ30字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
 X社との経営統合前における A 社の内部環境を分析する能力を問う問題である。

特に追加的な情報は得られませんでした。


第2問(配点20点)

 A社の現経営者は、先代経営者と比べてどのような戦略上の差別化を行ってきたか、かつその狙いは何か。100字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
 A社の現経営者は、入社以来、父である先代経営者と異なる経営戦略を展開してきた。本問は、A 社を取り巻く経営環境の変化に伴い、過去の経営戦略との違いとその目的について、考察する能力を問う問題である。

「入社以来」という情報が追加されました。与件には現経営者の入社後と、事業承継後の戦略に関する根拠がそれぞれ記載されていましたが、その両方を対象とする意図があったことが明確になりました。

また、「戦略上」という表現が「経営戦略」という表現に改められました。これは、「戦略」と「組織」のレイヤーの違いを明確にし、「戦略面」の取り組みのみを記述させる意図があったと考えられます。これにより、与件にある組織上の取り組みが第2問に対応していない可能性が高くなりました。

https://www.youtube.com/watch?v=suMKrN9ISjI&t=453s 52:14を参照してください)


第3問(配点20点)

 A社経営者は、経営統合に先立って、X社のどのような点に留意するべきか。100字以内で助言せよ。

【出題の趣旨】
 今後、顧客や商品サービス、立地や店舗オペレーションなどの面で異質な2社(A 社と X社)が経営統合するに当たって、A 社経営者が事前に留意しておくべき、経営戦略や経営組織に関わる諸課題を分析する能力を問う問題である。

「分析する能力を問う問題である」と明記されたことで、第3問では経営統合を円滑に進めるためのアドバイスは要求外であることが明らかになりました。「留意点」は状態(≒課題)を指摘する意図の助言問題と、改善策を提案する意図の助言問題がありますが、本問は前者が期待されていたことになります。

https://www.youtube.com/watch?v=suMKrN9ISjI&t=453s 1:02:00を参照してください)

再現答案においても、高得点者の解答のほとんどが留意点として指摘していたのに対し、C評価やD評価の解答では助言をしていた解答が非常に多いという特徴がありました。題意を適切に把握することで得点機会を高めることができると言えます。

また、「経営戦略や経営組織に関わる諸課題」と明示されたことで、「戦略面」「組織面」の双方が対象になることが明確になりました。意思疎通を支援する前経営者や経営統合を不安視して退職を考える従業員などの根拠が本問に対応したと考えられます。


第4問(配点40点)

 A社とX社の経営統合過程のマネジメントについて、以下の設問に答えよ。

(設問1)

 どのように組織の統合を進めていくべきか。80字以内で助言せよ。

【出題の趣旨】
 A社と X 社の経営統合プロセスにおいて、どのように統合後の経営の方向性を共有し、いかに両社間の意思疎通などを図るかについて、考察する能力を問う問題である。

期待効果が2つ明示されたことで、2つの目的とそれを得るための手段としての助言が期待されたことが明確になりました。「経営の方向性の共有」はA社において現経営者が取り組んだことで、これをX社でも行うことが期待され、「両社(A社とX社)間の意思疎通」については、組織横断的な人材配置による人材の流動性確保などの助言が期待されたと考えられます。

https://www.youtube.com/watch?v=suMKrN9ISjI&t=453s 1:30:45を参照してください)


(設問2)

 今後、どのような事業を展開していくべきか。競争戦略や成長戦略の観点から100字以内で助言せよ。

【出題の趣旨】
 A社とX社双方の弱みを克服し、互いの強みを活かしていける競争戦略を立案すると共に、経営統合によるシナジーを活かせる今後の成長戦略を描く能力を問う問題である。

設問では競争戦略「や」成長戦略と書かれているのに対し、趣旨では「共に」という表現に変更されています。このため、競争戦略か成長戦略のいずれかを指摘するのではなく、競争戦略と成長戦略の両方を指摘することが期待されていたことになります。といっても、趣旨にある「弱みの克服と強みの活用」「シナジーの発揮」が記述されていれば加点されると考えられます。

シナジーは情報的経営資源の多重利用によって実現されます。両社の経営統合によるシナジーは、A社のオリジナルメニューの開発ノウハウという情報的経営資源を、X社の店舗で多重利用することが期待されていたと考えられます。

https://www.youtube.com/watch?v=suMKrN9ISjI&t=453s 1:45:24 を参照してください。)



参考までに、EBAの設問解釈時点の解答例は以下でした。

【EBA解答例】(設問解釈時点)

A社やX社の経営資源を活用できる事業分野を絞り込み、両社のシナジー効果が得られるような事業を展開する。

これをもとに、与件回収後の解答例は以下のように修正されます。

【EBA解答例】(最終・与件回収後)

公共交通機関を利用する外国人観光客など駅前立地が活かせる顧客層にターゲットを絞り、地元産の高品質な原材料を使用したオリジナルメニューにより差別化し、X社店舗からA社店舗に誘導できるような事業を展開する。

以上です。次回は事例Ⅱについて書きたいと思います。