出題の趣旨を踏まえた令和4年度の事例Ⅰ

本日、口述試験結果が公表されました。

https://www.j-smeca.jp/attach/test/r04/r4_2ji_toukei.pdf



そして出題の趣旨も公表されています。

https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/010_c_r04_shiken/R04_2ji_shushi.html

今年も出題の趣旨を踏まえて令和4年度の2次試験を振り返りたいと思います。

令和3年度の振り返りはこちらをお読みください。

まずは事例Ⅰを振り返りましょう。

第1問(配点20点)

A社が株式会社化(法人化)する以前において、同社の強みと弱みを 100 字以内で分析せよ。

【出題の趣旨】
法人化前における内部環境分析に関わる問題である。


「内部環境分析」と明示されており、SWOT分析のような環境分析問題であったことが確認できます。


第2問(配点20点)

A社が新規就農者を獲得し定着させるために必要な施策について、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。

【出題の趣旨】
基盤事業における人材の採用と定着の方法について、助言する能力を問う問題である。


「基盤事業における人材」という表現が追加されましたが、これは設問の「新規就農者」という表現を変えたものです。表現を変えた理由として、A社のもつ複数事業(農業、加工事業、直営店事業)のうち、基盤事業となる農業事業の人材についてのみ指摘させる意図があったと判断できます。

また、設問の「獲得し定着させる」という表現が「採用と定着」に変わっていますが、設問の「獲得」だけでも採用面の助言が期待されていたと判断できると思います。


第3問(配点20点)

A社は大手中食業者とどのような取引関係を築いていくべきか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。

【出題の趣旨】
主要取引先との関係の強化と新しい分野の探索について、助言する能力を問う問題である。


主要取引先との「関係の強化」と明示されているため、大手中食業者との関係性は「強化する」ことが題意になります。

「関係の強化」は①売上面、②売上以外で考えることができますが、与件には「売上高の依存割合が年々増加していった」と書かれてあることから、経営リスクを考慮すると売上依存関係の強化は期待されていないと考えられます。

そのため②売上以外の関係強化が期待されていたのではないかと思われます。

大手中食業者との関係は、「同社との取引を通じて対応能力を蓄積することができた」というポジティブな面と、「大手中食業者への対応に忙殺されるあまり、新たな品種の生産が思うようにできていない状況であった」というネガティブな面があります。

出題の趣旨には「新しい分野の探索」という表現も追加されています。

与件の「新たな品種」を「新しい分野」に置き換えるのは違和感があるため、これは素直に「新分野の探索(開拓)」だと思われます。そうなると、与件にある「A 社は、今後も地域に根ざした農業を基盤に据えつつ、新たな分野に挑戦したいと考えている。」という根拠が対応することになります。

出題の趣旨は「主要取引先との関係の強化と新しい分野の探索」であり、「主要取引先との関係の強化による新しい分野の探索」ではないため、A社には2つの課題があったことを示唆しています。

1つは「大手中食業者との関係強化」で、もう1つは「新たな分野の探索」です。

与件に「大手中食業者への対応に忙殺」と書かれているため、現状のA社に新たな分野を探索する余力はないと解釈できます。

このため、解答の方向性として、「同社との取引を通じて蓄積できた対応能力」を活用することで大手中食業者のニーズに合った「新たな品種の生産」を行いつつ、余力を確保して「新たな分野を開拓する(ことで経営リスクを分散する)」といった解答が期待されていたと考えることができます。

やはりこの問題が一番難しい問題でした。

第4問(配点40点)

A社の今後の戦略展開にあたって、以下の設問に答えよ。

(設問1)

A社は今後の事業展開にあたり、どのような組織構造を構築すべきか、中小企業診断士として50字以内で助言せよ。

【出題の趣旨】
経営戦略の展開にあたっての経営組織の構造について、助言する能力を問う問題である。


「組織構造を構築」が「経営組織の構造」に置き換えられており、「構造」という表現が強調されています。

以前にも書きましたが、本問は組織「形態」でなく組織「構造」が期待された問題であり、○○組織といった組織形態は題意ではありません。

おそらく大多数の受験生の解答は組織形態で書かれているため、出題の趣旨でヒントを漏らしたと解釈することもできます(邪推かもしれませんが)。

(設問2)

現経営者は、今後5年程度の期間で、後継者を中心とした組織体制にすることを検討している。その際、どのように権限委譲や人員配置を行っていくべきか、中小企業診断士として100字以内で助言せよ。

【出題の趣旨】
円滑な次世代経営体制への移行プロセスについて、助言する能力を問う問題である。


「円滑な次世代経営体制への移行プロセス」という表現が追加されました。

試験委員である落合康裕氏の著書「事業承継の経営学」では、「次世代経営組織の構築」について言及しています。

令和3年度も同様の趣旨の問題が出題されており、診断士試験における事業承継の重要性の高さが感じられます。

著書では次世代経営者主導の組織的な体制の要件として「組織の分業・階層関係や権限・責任関係の再構築」を指摘しているため、 (設問1)において「分業・階層関係・権限責任関係」の強化といった組織構造を指摘させ、(設問2)で移行プロセスを指摘させる意図があったと考えられます。

また趣旨の「円滑な移行プロセス」という表現から、助言の対象は後継者を含めた管理人材であり、従業員の動機づけといった助言は期待されていないことがわかります。


昨年11月の解説会では「今年は(事例Ⅳ除いて)事例Ⅰが最も難しい」と話しました(https://www.youtube.com/watch?v=7pMeevFfG3Y&t=532s)が、不合格者137名の得点開示の平均点では事例Ⅰ53点、事例Ⅱ57点、事例Ⅲ55点、事例Ⅳ52点と、事例Ⅳ以外では事例Ⅰが最も低くなっています。

今年の事例Ⅰが難しかった最大の要因は、第3問の設問の難易度の高さと、第4問の組織問題への対応の難しさだったと思います。

事例問題の難易度は毎年変わるため、令和5年度は令和4年度より易化しますが、出題傾向の変化(内部環境分析問題の登場や事業承継問題)への対策が必要になると思います。

次回は事例Ⅱについて書きます。

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