出題の趣旨を踏まえた令和4年度の事例Ⅲ

今回は令和4年度の事例Ⅲについて書きます。

令和3年度の事例Ⅲはこちらをお読みください。

第1問(配点20点)

2020年以降今日までの外部経営環境の変化の中で、C社の販売面、生産面の課題を80字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
新型コロナウイルスのパンデミックや急激な円安など2020年以降今日までの外部経営環境変化の中で、C 社に生じている販売面と生産面の課題について、分析する能力を問う問題である。


2020年以降の時制情報に、「新型コロナウイルスのパンデミックや急激な円安など」という情報が追加されました。「新型コロナウイルスのパンデミック」については、販売面の課題として外食産業の取引先依存の指摘が、

「急激な円安」については、生産面の課題として国内回帰する新規取引先X社への対応(小ロット、短納期など)が、それぞれ課題として期待されていたと考えられます。

第2問(配点20点)

C社の主力製品であるプレス加工製品の新規受注では、新規引合いから量産製品初回納品まで長期化することがある。しかし、プレス加工製品では短納期生産が一般化している。C社が新規受注の短納期化を図るための課題とその対応策を120字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
プレス加工製品の金型製作工程と製品量産工程の生産プロセスにおいて、新規受注の際に長期化する要因を整理し、短納期化するための課題とその対応策について、助言する能力を問う問題である。


第3問では「C 社の製品量産工程課題」と明示されています。

つまり、「製品量産工程」の課題の特定と対応策の助言が期待されていたと判断できます。

これに対して第2問では「プレス加工製品の金型製作工程と製品量産工程の課題」のように第3問と同じ表現を使用せず、「プレス加工製品の金型製作工程と製品量産工程の生産プロセスにおいて」としています(課題を埋め込んだ対象範囲の指定)。

「プレス加工製品の金型製作工程と製品量産工程の課題」と書けば第3問と同じ意図になりますが、変えているため題意も異なると考えられます。つまり、課題はA工程かB工程のいずれか(もしくは両方)にあることを示唆しているという解釈です。

上記から、第2問と第3問の解答作成に対応する与件根拠は以下のように整理できます。

金型製作工程製品量産工程
第2問   ○   ○
第3問   ×   ◎

令和4年度の事例Ⅲでは、製品量産工程における段取り替えの根拠を第2問、第3問のいずれかに対応させる判断が求められました。

上記の表からは「どちらでもOK牧場」と解釈できますが、趣旨に「新規受注の際に長期化する要因」と書かれています。

設問にも「新規受注の短納期化を図るため」と書かれていますが、趣旨では表現を変えて「新規受注の際に」と強調していることから、出題者に何らかの意図(おそらく強調の意図)があったと解釈できます。

段取り替えは繰り返し生産において生産性に大きく影響しますが、1度の生産では重要ではありません。

段取り変えの生産への影響は、1回の段取り時間×段取り回数なので、段取り回数が多くなると生産期間も長くなります。

新規受注の量産製品「初回」納品は1度です。

現状、C社は基準日程でロットサイズを決めており、比較的大きいロットサイズであることがわかります。現状のC社の段取り回数は少ないため、段取り替えが生産期間に与える影響も少なくなります。

段取り改善は量産時の小ロット生産において重視されることから、第3問の課題として指摘するほうが妥当性は高いと考えることができます。

理屈をこねくり回しましたが、試験当日では小ロット生産→第3問だなと判断したうえで、不安だから第2問にも書いておこう、といった被覆栽培が現実的な対応だと思います。

第3問(配点20点)

C社の販売先である業務用食器・什器卸売企業からの発注ロットサイズが減少している。また、検討しているホームセンターX社の新規取引でも、1回の発注ロットサイズはさらに小ロットになる。このような顧客企業の発注方法の変化に対応すべきC社の生産面の対応策を120字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
顧客企業の発注ロットサイズの小ロット化への変化に対応するための C 社の製品量産工程の課題を整理し、その対応策について、助言する能力を問う問題である。

「C社の製品量産工程の課題」と明示されているため、与件根拠は「製品量産工程」を対応づけた解答が期待されていたことがわかります。

プレス加工は生産能力に制約があるため、生産ロットサイズを縮小することで生産余力を確保し、これを段取り作業員のサポートに充てることで小ロット・短納期生産を実現する、といった解答が期待されていたと考えられます。

第4問(配点20点)

C社社長は、ホームセンター X 社との新規取引を契機として、生産業務の情報の交換と共有についてデジタル化を進め、生産業務のスピードアップを図りたいと考えている。C社で優先すべきデジタル化の内容と、そのための社内活動はどのように進めるべきか、120字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
生産業務のスピードアップを図り、生産リードタイムを短縮するための C 社の生産業務の課題を整理し、そのために優先すべきデジタル化の対象、業務内容と、デジタル化構築のために必要となる社内活動について、助言する能力を問う問題である。

期待効果として「生産リードタイムの短縮」が明記されました。

これによりデジタル化の対象は「生産管理」であると判断できます。

また「業務内容」については、与件根拠「C社の受注から納品に至る社内業務」であると解釈できます。

「デジタル化構築にため」に必要となる社内活動から、「デジタル化後の運用」でなく、それ以前の「構築面」の助言が期待されていたことがわかります。

第5問(配点20点)

C社社長が積極的に取り組みたいと考えているホームセンターX社との新規取引に応えることは、C社の今後の戦略にどのような可能性を持つのか、中小企業診断士として100字以内で助言せよ。

【出題の趣旨】
ホームセンターX 社との新規取引に応えることによって、C 社の今後の戦略に影響する製品や市場、業績などに生じる新たな可能性について、助言する能力を問う問題である。


「製品や市場、業績などに生じる新たな可能性」という表現が追加されました。

「製品」は第1問の課題に対応して外食産業以外(アウトドア製品)が、「市場」は業務用市場から最終消費者市場への拡大可能性が期待できます。

また「業績」については、与件の「今後高価格な製品に拡大することも期待」から、「収益性改善」が期待されていたと解釈できます。

令和4年度の事例Ⅲの作問者が変わったことは明らかですが、その影響の多くは与件設計に表れ、設問への影響は軽微です。

ここ数年の事例Ⅲの主要テーマは「与件根拠の切り分け」で、理論自体を応用した助言のレベルは変化していません。

おそらく今後もこの傾向が続くため、設問から与件根拠を対応づける能力の強化に力を入れる対策が有効になると考えます。

といっても、理論をただしく理解できていることが前提になります。


以下の問題に即答できない方は、理論の基本を学習することを推奨します。

問題
令和4年度のC社が生産ロットサイズを縮小することの利点を3つ、縮小による課題を1つ述べよ。