出題の趣旨を踏まえた令和4年度の事例Ⅱ

今回は令和4年度の事例Ⅱについて書きます。

令和3年度の事例Ⅱはこちらをお読みください。

第1問(配点30点)

B社の現状について、3C(Customer:顧客、Competitor:競合、Company:自社)分析の観点から150字以内で述べよ。

【出題の趣旨】
内外の経営環境を分析する能力を問う問題である。


この趣旨は令和3年度とまったく同じ表現です。

令和3年度はSWOTが出題されていますが、試験委員にとってはSWOTも3C分析も題意は同じであるとの解釈になります。

ちなみに3C分析は平成30年にも出題されていますが、その際の出題の趣旨は「B社の顧客の状況、自社の強み・弱みと競合の状況について分析する能力を問う問題である。」でした。

今回と平成30年では趣旨が異なりますが、これは、平成30年は3C分析が初見だったため、3C分析で問われるものを示唆するためにこのような(丁寧な)説明になったと思われます。

第2問(配点20点)

B社は、X 県から「地元事業者と協業し、第一次産業を再活性化させ、県の社会経済活動の促進に力を貸してほしい」という依頼を受け、B社の製造加工技術力を生かして新たな商品開発を行うことにした。商品コンセプトと販路を明確にして、100字以内で助言せよ。

【出題の趣旨】
自社の強みを生かして地域課題の解決を図るための商品戦略と流通戦略について、助言する能力を問う問題である。


設問の表現がより端的になっており、題意が明確に伝わります。

解答においては①B社の活用資源、②商品戦略、③流通戦略、④期待効果として地域課題の解決が加点対象であることがわかります。

第3問(配点20点)

アフターコロナを見据えて、B社は直営の食肉小売店の販売力強化を図りたいと考えている。どのような施策をとればよいか、顧客ターゲットと品揃えの観点から100字以内で助言せよ。

【出題の趣旨】
自社の成長事業を強化するためのターゲティング戦略について、助言する能力を問う問題である。

直営店の小売店販売事業が「自社の成長事業」に、「顧客ターゲットと品揃えの観点」が「ターゲティング戦略」にそれぞれ変わっています。

試験委員の澁谷覚氏は自身の共著「はじめてのマーケティング 新版」において、「ターゲットを明確にすることによって、製品やサービスに、はっきりとした特徴を打ち出すことができるのです。そしてこのことが、ターゲットとして設定されたセグメントの顧客にとって、製品やサービスの魅力を高めることにつながります。」と書いています。

これにより、設問の「販売力強化」とは、標的となる市場を具体的に設定し、ターゲットに合った品揃えを見直すこと自体が、製品やサービスの魅力を高める(=つまり販売力が強化される)という意図があったと解釈できます。

このタイプの問題はこれまでになかった問題で、個人的に大好きな問題です。中小企業にぴったりの戦略だと思いますし、こういう思考を試験を通じて学べることはとても意義深いことだと感じました。がんばって演習問題でパクります。

第4問(配点30点)

B社社長は、新規事業として、最終消費者へのオンライン販売チャネル開拓に乗り出すつもりである。ただし、コロナ禍で試した大手ネットショッピングモールでの自社単独の食肉販売がうまくいかなかった経験から、オンライン販売事業者との協業によって行うことを考えている。

中小企業診断士に相談したところ、B社社長は日本政策金融公庫『消費者動向調査』(令和4年1月)を示された。これによると、家庭での食に関する家事で最も簡便化したい工程は「献立の考案」(29.4%)、「調理」(19.8%)、「後片付け」(18.2%)、「食材の購入」(10.7%)、「容器等のごみの処分」(8.5%)、「盛り付け・配膳」(3.3%)、「特にない」(10.3%)とのことであった。

B社はどのようなオンライン販売事業者と協業すべきか、また、この際、協業が長期的に成功するためにB社はどのような提案を行うべきか、150字以内で助言せよ

【出題の趣旨】
新規市場への参入にあたって必要となる取引関係の構築、商品戦略、協業先がとるべきコミュニケーション戦略の提案について、助言する能力を問う問題である。


設問では①協業先となるオンライン販売業者の指摘、②協業を長期的に成功させるための協業先への提案の2点が期待されていましたが、出題の趣旨により、それは①新規市場(=オンライン市場)への参入にあたって必要な取引関係の構築、②商品戦略、③協業先がとるべきコミュニケーション戦略の3点であることが明らかにされました。

③により、協業を長期的に成功させるためには、「顧客とのコミュニケーションを通じた関係強化」が必要で、そのための協業先への提案が期待されていたことがわかります。B社の「献立の提案ノウハウ」の活用が示唆されていると解釈できます。

また②の商品戦略は、おなじくB社の「半加工を請け負えるノウハウ」が期待されていたと解釈できます。

①の「取引関係の構築」は、協業相手との取引関係を指しており、B社が協業相手と取引を開始するための提案が期待されていたと解釈できます。

①は類推になってしまいますが、B社が相手先ブランドで商品を供給するなど、協業相手がただB社の商品を取り扱うだけではない特別な誘因が必要だったと考えられます。まあ難しいですね。

令和4年度の事例Ⅱは4つの事例で最も平均点が高く、不合格者137名でD評価は0名でした。

難易度が低くなった理由は題意を外しやすい問題がなかったためです。

令和3年のフランチャイズや令和2年のアンゾフの問題などは、解答の方向性が外れやすいため、事故を起こして低評価になるリスクがあります。

令和5年度の事例Ⅱは難化することが予想されます。

令和4年度で50点以上取れた方は、難問がある場合の難易度と優先順位の評価ができるようにしましょう。令和4年度で50点未満だった方は要注意です。

まず、令和4年度の問題と出題の趣旨を見比べて、設問から趣旨が想定できるようにトレーニングしてください。また、第1問のような情報整理問題を決して疎かにせず、処理手順を固めることも重要です。