今年のA社

えぐちです。

毎年恒例ですが、今年の事例企業を物語風に書きました。

週末の口述試験対策に活用してください。

※去年の分はこの記事の最後にリンクを掲載しています。気になる人は見てみてください。

 江戸時代から続く老舗酒蔵であるA社は、現A社長の祖父(以下、おじいちゃんという)が10年前に友好的買収によって事業承継した会社です。おじいちゃんは地元の有力者で、飲食業や高級旅館を経営していました。おじいちゃんは地域を活性化させたいという経営ビジョンを持っていましたが、インバウンドブームの前兆期であった当時、A社の老舗ブランドは日本の文化や伝統に憧れる外国人観光客を引き寄せるに絶好の資源になると考え、友好的買収を決断しました。この老舗ブランドはインバウンド観光客を増加させ、おじいちゃんが経営する飲食店や高級旅館の集客にも大いに貢献することが期待できます。企業グループ全体に相乗効果をもたらすことで、地域の雇用が増加でき、この街の活性化を実現できる。そう確信しました。

 A社を友好的買収したおじいちゃんは、A社の前経営者を経営顧問として残し、A社のベテラン従業員を従来通りの条件で雇用しました。おじいちゃんは、自身がかなり高齢であることから、かねてから孫を企業グループの後継者として任せたいと考えていました。今回のA社買収をきっかけに、おじいちゃんは金融機関に勤務していた孫を呼び戻し、A社の社長に就任させました。そして経営顧問やベテラン蔵人から酒造りや酒蔵の経営を学ばせるとともに、自ら師匠(以下、お師さんという)となり、3年間A社長を育成しました。

 A社経営者やベテラン蔵人たちの雇用を引き継いだのは、A社長の育成だけが目的ではありませんでした。A社は江戸時代から続く伝統ある老舗酒蔵です。A社の稀少性の高い老舗ブランドは、前経営者やベテラン蔵人たちに代々引き継がれてきたものです。彼ら人的資源こそが老舗酒蔵の強みとなるため、これまでと同様の条件で引き続くことで、雇用責任を果たすとともに、老舗ブランドの伝統を維持しようと考えたのでした。

 老舗酒蔵を承継したA社長は、経営再建に取り組みました。一時は売上2億円を超えていたA社も、現在では半分程度まで落ち込んでいました。A社長の経営再建の大きな力になったのは、若手従業員たちでした。

 若い女性社員は、ベテラン女性事務員がもっていた、複雑な事務作業や取引先との商売といった属人的なノウハウの情報システム化に取り組みました。若手女性社員は、ベテラン女性事務員と2年ほど共に働いて知識や経験を受け継ぎ、それを整理して情報システム化を進めました。

 若き執行役員は、酒の営業担当として本業の売上回復に大いに貢献してくれました。ルートセールスを中心とした古い営業のやり方を抜本的に見直し、直販方式の導入によって本業の酒造事業の売上を伸長させたやり手の執行役員です。部下である営業担当者に、これまでとは異なる営業方式を提案しました。情報システム化した顧客データベースの活用や、グループ企業である飲食業や高級旅館との連携など、新しい営業スタイルに必要な能力の向上を求めつつも、自らは杜氏や蔵人と新規事業との橋渡し役となり、レストランや日本酒バーなどの来店客から得たニーズを酒造事業の製品改良に活かすなど、営業担当者を陰ながらサポートしてきました。

 A社長の大胆な人材抜擢・人材活用により、A社の売上はかつてのピーク時の売上高と同程度にまで回復させることができました。それだけでなく、A社長は新規事業開発に取り組み、土産店、レストラン、日本酒バーにより、3億円もの売上高を上げるまで成長させました。

 孫の期待以上の成長ぶりにおじちゃんはホクホク顔です。これなら近い将来、孫に企業グループの総帥の座を譲ることができそうです。A社長もまた、自身がA社のみを任される存在ではないことを自覚しています。A社の再建と新規事業開発に成功した現在、そろそろ将来のことを考える必要があります。A社長は、自身が企業グループの総帥になるために、2つの課題があることを自覚していました。

 1つは、再建した老舗酒蔵の経営を任せることで、企業グループ全体を統括できる体制を構築することです。A社長が飲食業や高級旅館を含めた企業グループを経営するために、A社の経営管理を後任に委譲する必要があります。A社長は、その人材は、自身の右腕である若き執行役員が適任だと考えていました。頭の固いベテラン蔵人や杜氏とも仲良くできる執行役員なら、A社の経営を任せることができる。そう考えています。これでA社は業務的意思決定から解放されて、企業グループ全体の経営を統括できるようになります。

 もう1つの課題は、企業グループ全体のバランスを考慮した人事制度の確立です。なんといってもA社の人事管理は、伝統的な家族主義的経営やおじいちゃんの経験や勘をベースとした前近代的なもので、昔から年功序列型の賃金体系を続けています。これはこれで、組織的な連帯感を醸成できる利点がありますが、現在のA社では、中途採用して責任者となった正規社員や、地元学生や主婦などの非正規社員、また外国人従業員など、異なる事業の多様な従業員が働いています。これまでの人事制度を続ければ、従業員のモチベーションが低下することが懸念されます。

 A社長は、年功序列的な賃金制度に代わるものとして、成果主義制度や、能力主義制度などを検討しています。とはいえ、成果主義は従業員の短期志向や個人主義を助長するため、伝統的ノウハウに価値がある酒造事業には馴染みませんし、試験委員の小川正博先生も成果主義があまり好きではありません。このため、A社長は、能力主義の導入を検討しました。能力主義は、従業員の職務遂行能力に基づく評価制度です。このため、A社長は、社員と共に現場で働き、全ての仕事の流れを確認していくと同時に、その能力を見極めることにも努めました。まずA社での導入を進めたのちには、企業グループ全体での採用を検討しています。その際は、飲食業や高級旅館でも同様に、仕事に必要な能力を見極める必要がありそうです。そのためにも、A社を任せられる執行役員は、A社長にとってとてもありがたい存在です。

 こうしてA社長は、おじいちゃんの期待に応える人材として、着実に成長しています。



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